第7章 ベール
「…あ?…"物"…?」
低い声で眼光を鋭くさせたひまりは3人の顔を凝視している。
その片足は彼女達の行手を阻むように、体育館の壁に置かれていた。
「な、なによ…!!」
「みんなの…"物"?ねぇ、それ訂正してくんない?由希は物じゃないんだけど」
「そういう意味じゃ…!ってか何なの!?急にタメ口になって…こっちはアンタより年上」
「"今"はアンタ達と対等な立場として話してるから。そっちが敬語使わないなら使う必要なくない?」
完全に目が据わっているひまりに怖気付いてはいたものの、負けじと睨みを効かせる3人はまた腕を組んで前に立つ。
「ねぇ、アンタ達ホントに由希が好きなの?私には由希が好きって言うより恋に恋して自分の事しか考えてない"ごっこ遊び"に見えんだけど気のせい?」
「なっ!?本当に由希が好きに決まってるじゃない!由希が好きよ!大切な人よ!!」
顔を真っ赤にさせた彼女達の1人が、壁から足を下ろしたひまりの顔目掛けて開いた手を振り下ろし乾いた音が響く。
瞬きひとつせず平手打ちを受けた事に、驚きを隠しきれないように目を見開く彼女達を無視してひまりは更に続けた。
「草摩の人間ってこともあって、由希とは幼い頃からの仲なんだよね。由希にとって私は大事な人間なの。勿論私にとってももう家族みたいな存在なのよ。ねぇ、好きな相手の大事な人間傷付けるのが恋な訳?私にしても透君にしてもさぁ、由希の大事な人間を大切に出来ないヤツが戯言言うのも大概にしてくれない?」
ひまりはギュッと握っていた拳を震わせていた。
怒りで早くなる心臓。
落ち着かせようと心臓辺りを鷲掴みにするが、ひまりの怒りは収まりそうもなかった。
「誰かを好きになる感情なんて分からないけど、さすがにアンタらのは違うでしょ!!ファンクラブだか何だか知らないけど多数の意見が一致したからって好きな人の大事な人間傷付けたり遠ざけていい理由にはならないから!その、時点でっ、アンタらの中の由希はただの人形になってるって、気付かない!?嫌われるって、分からない!?好きな相手にっ、嫌われることがどっ……」
興奮するひまりの言葉が詰まったのとほぼ同時に、ひまりは誰かに後ろから力強く腕を引っ張られていた。