第7章 ベール
「あのー…私、草摩の人間ではあるんですが、草摩の財産は私の物では無いのでお金全然持ってないんですよ」
「はぁ?何言ってんの?」
呼び出し場の定番である体育館裏に呼び出されていたひまりは、いかに自分にお金が無いかということを熱弁していた。
それに苛ついたような顔つきで腕を組み、彼女を囲む3人の女子生徒。
事の発端は放課後。
由希は生徒会、夾は道場があり先に下校していた。
ひまりはバイトがある透君を除いた、ありさと咲で雑談をした後、下校前に用を足しにトイレへ行ってから下駄箱に向かった。
その下駄箱に入っていた1通の手紙。
ルーズリーフの切れ端のような小さい紙が四つ折りになって靴の上に置かれていたそれに、お昼休憩の時に話していた内容がひまりの頭の中で蘇る。
恐る恐る紙を開いてみると放課後に体育館裏に1人で来るようにと書かれていた。
ちょっと待て、ありさ達と雑談していた分、放課後が始まってからまぁまぁ時間が経つがこの手紙の指定時間はいつだったんだろうか。と不安になっていた。
手紙で1人で来い…と言うことはタイマンの方か…とその紙を手に指定されていた体育館裏へと足早に向かう。
そこには体育館の壁に気怠そうに背中を預けていたり、しゃがみ込んでいる女子生徒が3人。
放課後が始まってからずっと待っていたであろう彼女達に申し訳なさを感じつつ、多人数ということはカツアゲの方だったのか…と自身の予想が外れたことに落胆しながら「あのー…」と声をかけた。
一応、ひまりはカツアゲ対策として現場へ向かう前に財布の中身を確認していた。
諭吉先輩が居よう物なら靴下の中にでも隠して行こうと思っていたが、生憎買い物を予定していなかった今日の財布の中身は諭吉先輩の10分の1の人物が1人。
カツアゲに会ったとしても、これならそこまで痛手では無い。と対策してから書かれていた場所へと出向いたので少し心に余裕を持っていた。
ひまりの声に一斉に視線を向けてきた彼女達はその目尻を一気に吊り上げる。
「ちょっと先輩待たせるとかアンタなめてんの?」
いやいや先輩だった事も今知りましたし、紙の存在もさっき知ったので待たせたつもりは無いんですが…と頭に浮かんだ相手を逆上させるであろう言葉を飲み込んだ代わりに、お金持っていませんアピールを始めたのだった。