第7章 ベール
「ってか、ひまりじゃなかったら誰が目ぇつけられてると思ったんだ??」
目尻に浮かんだ涙を拭いながらありさが問いかけると、絶望的な表情で項垂れているひまりが視線を向けずに手だけでゆっくりと由希を指差した。
「由希のファンなら…由希を見るために来てたのかなって…」
「え?俺?」
急に指名された由希は驚いたように自身の鼻に人差し指を置いている。
ひまりの答えにありさは「まぁ、あながち間違っちゃいねーけど」とフォローしつつもひまりの肩に腕を乗せる。
「ま、花島が居りゃある程度は大丈夫だと思うけど気ィつけろよー?王子のファンは熱狂的だかんなー。花島ん家にも1回偵察に来やがったもんな?」
「そうね…お灸を据えてあげたあの時が懐かしい…」
「灸って…何したんだよお前…」
顔を歪ませる夾の顔を見た後にフッと不敵な笑みを見せる咲に、背中にゾッとしたものを感じ更に顔を歪ませた。
「けど…あの人達もきっと悪い人では無いわよ。元々の心根が腐ってるだけね」
「それなんのフォローにもなってねぇぞ花島」
「呼び出し喰らってカツアゲ…私カツアゲされちゃう…」
「そ、そんな!だ、だ、大丈夫ですよひまりさん!その際は私が!ひまりさんをお守りいたしますのでっ!!」
「ヤンキー漫画に引っ張られすぎだし、透も目付けられてんのに自分から足突っ込みに行くなよ」
「大丈夫よひまり、透君…何かしてこようもんなら私が相手をするから…」
「死人でるからお前は何もすんなよ花島ァ」
絶望感で項垂れながらブツブツ呟くひまり、それを必死で元気付ける透に、「あら…物的証拠は残さないわよ?」と涼しい顔の咲と、既に話題に飽きたのか欠伸をし始めるありさ。
このカオスな状況に由希と夾は片方の口角をピクピクと歪ませていた。
「ま、まぁひまり、何かあったらすぐに相談して?俺から話せば何か…」
「女のタイマンに男は入るべからず…」
「いや、だからお前ヤンキー漫画に引っ張られすぎな」
何故かタイマンとやらをする気満々のひまりに夾が頭を小突きながら突っ込むと、ありさはまたゲラゲラと笑い出した。
二階の窓からはその様子を数人の女子がまた不服そうな顔をして眺めていた。