第7章 ベール
至近距離でジッと見つめられる瞳に怯んだひまりは、眉尻を下げながら瞬きを繰り返していた。
目が本気だ。
逆らえば秒で変身させられる未来が見えたひまりは、肩を竦めて由希の瞳を見つめる。
「分かってマス。スミマセンデシタ…」
ひまりの謝罪に納得したのか、上げていた目尻を下げるとニッコリと由希は微笑んだ。
小さくなっているひまりから離れると元いた場所に座り直し、持っていたペンの先をトントンとプリントの上で叩く。
その様子をジィーっと見つめていたひまりは、先程のドス黒いオーラが消えていることを確認してから彼の横に座り直し、謎解きを再開すべくプリントを覗きこんだ。
「まぁ、でも急にフランス語が出たりっていうのは正直不自然だからね。コレが答えではないと思うよ」
「うんー。私もコレは違うと思う。もっと単純な気がするんだよね」
「単純?」
「何かこう…ねじ曲げられてない感じというか…」
胡座をかいて腕を組み、肩に耳がつきそうな程首を傾げて考えるひまり。
由希もペンを口元に持って行くとウーンと悩み始めるが、ふと今まで書いてたこの紙は何のプリントなんだろう…とそれをひっくり返す。
それを見ていたひまりが「あっ!」となにかを思い出したかのように、傾けていた首を元の位置へ戻した。
「修学旅行の…お知らせ?」
「そう!修学旅行!相談したかったの!」
相談?とキョトンとしている由希にプリントに書かれている行き先を指差してひまりは不安げに眉を下げる。
「ここって…ガッツリ観光地だよね…?由希は不安じゃない…?その、人混みとか…」
「あぁ、そういうこと」
物の怪憑きであるが故に他人とぶつかって変身してしまうリスクが高い人混みは、十二支であればみんなが避けたいと思っているもの。
ひまりの不安を理解した由希は少し微笑むと「大丈夫だよ」と声をかけた。
「グループ行動だし、避けようと思えば人混みは避けられるんじゃないかな?それに俺達のグループだったら本田さんもいるし…夾も、いるから心配すること無いと思うよ?だから一緒に行こうよ、修学旅行。ひまりとの思い出もたくさん作りたいしね」
由希の言葉にひまりは僅かに目を見開いた。