第7章 ベール
「だから、まずシロツメクサを英語にして…」
紙に書かれる"white clover"の文字を興味津々で覗くひまりの近さに狼狽ながらも、この文字の中から別の言葉がないかを考え始めた。
「"love、twice"だと"htr"が残るし…"clever、with"だと"o"が残るのか…うーん…」
「待って何でそんなにスラスラ出てくるの。変態なの」
「ひまり?」
ニッコリと微笑む由希の背後に黒いオーラが見えたひまりは体を小さくして、今すぐ黙りますの意味を込めて両手で口を押さえる。
由希はプリントに視線を戻すとウーンと悩み始めた。
その隣でひまりも必死で単語を探すが、彼のようには出てこず混乱したように目を閉じて頭を捻る。
「あっ…」
何か閃いたように単語を書き出した由希に目をキラキラさせてプリントを覗き込むが、その目はだんだんと困惑に変わり首を傾げ始める。
由希も書き終えたものの、納得がいかないように眉を潜めていた。
「クレゥ?トゥー…ハイバー???」
「クリュートゥイヴェール、だよ」
「ちょっとまて、どう読めばイヴェールになるのコレ」
プリントに書かれていたのは"clew to hiver"。
確かに"white clover"を全て使って並べ替えたものだったが、ひまりには全く意味がわからなかった上に何故イヴェールなどと読むのかも理解出来なかった。
「"clew"は確かギリシャ神話に出てくる道標の糸のことで、"hiver"はフランス語で冬…って意味だったかな」
「いやいやいや、ギリシャ神話とかフランス語とか何でそんなの知ってるの。ど変態なの」
言った後にハッとしてひまりは自身の口を両手で塞ぐが、時すでに遅し。
眼光を鋭くさせた由希がじりじりと詰め寄り、逃れようとするが背後は壁。
「ちがう!ちがうの!!言葉のあやってやつ!ね??」
早口で取り繕うように笑って弁明するが、由希はウンともスンとも言わず詰め寄ることをやめない。
汗をダラダラと流すひまりの鼻先に鼻先がつきそうな程近寄ったところでやっと由希が口を開いた。
「俺は今すぐひまりを変身させる事もできるけど…そのことちゃんと分かってる?」