第7章 ベール
一触即発の状態にある由希と夾に焦るひまり。
戸惑ったように眉尻を下げた彼女に気付いた夾が、舌打ちをして掴んでいた由希の胸ぐらをを放した。
「え、どう…したの…」
「なんでもねぇよ」
「ごめんひまり、ビックリさせて」
不安そうなひまりを安心させるように穏やかに笑う由希が夾の傍から離れると、夾は不機嫌さを醸し出したまま扉を閉めて部屋へと戻った。
いつもの言い合いのようなものとはまた違う2人の雰囲気にひまりの不安感は、由希の微笑みだけでは消えない。
「それは全然いいんだけど…何かあったの?」
「いや、いつもの喧嘩だよ。それより何持ってるの?」
明らかにはぐらかされたが、由希の思惑通りひまりは自身の手に視線を落としてしまう。
その手にはさっき一生懸命謎解きをしていた歌詞カードが持たれていた。
「あ、焦って持ったままだった」
「歌詞カード?利津から貰ったやつ?」
このままだと流されて何があったのかが聞けないが、乗ってしまったこの流れを止めるのもどうなんだろう…とひまりは一瞬悩んだが
「うん。ちょっと…分からないことがあって」
と今更蒸し返すのも違う気がして、流れを止めることなく話を続ける。
「分からないこと?」
首を傾げる由希に手招きをして、部屋の中へと招き入れる。
机の上のプリントの裏に書いたメモを見せながらひまりは説明を始めた。
「なんかね、この歌詞の中でアナグラムのメッセージで救われたーみたいな所があるんだけど、そのメッセージの意味がわっかんないんだよね」
「アナグラムって並べ替えて別の言葉にするってやつだよね?」
「そうそう。シロツメクサを並べ替えてもなーんにも言葉にならないし…」
ひまりの隣に腰掛けた由希が、折り曲げた人差し指を口元に持っていって数秒考えた後「じゃぁ…」とペンを持ってプリントの裏に文字を書き始める。
「英語にするんじゃない?ほら"Listen"を並び替えると"Silent"になる…みたいな」
「おお!!"聞く"が"沈黙"になった!面白い!」
隣で興奮するひまりにクスっと笑うと、続けて英単語を書き始めた。