第7章 ベール
「…5年前にひまりが慊人に閉じ込められた時のこと…知ってるか?」
「あぁ、聞いただけだけどな。それが何だよ」
「あの時ひまりはリンに抱き締められても変身しなかった。あの夜彼女の話を盗み聞きしてたお前なら分かるだろ。この矛盾が」
わざと煽るように言葉を紡ぎ出す由希は、知らぬ存ぜぬを貫いていた夾に少なからず腹を立てているようだった。
夾はばつが悪そうに由希から視線を逸らすと「…あぁ」と小さく呟く。
「俺と春はそこに呪いを解く手掛かりがあるんじゃないかと思ってる」
「ンなもん、たまたま変身しなかったとか言うオチじゃねーの?」
「…俺らのコレに"たまたま変身しなかった"なんてこと今まであったか?」
細めた目で「お前バカか?」とでも言いたげな由希の視線に軽く舌打ちをして雑に頭を掻くと「わかんねーだろ。んなもん」と吐き捨てる。
「お前、ひまりのお母さんの事で何か覚えてる事ないか?」
「あ?何でアイツの母親……。あぁ、あの事件は母親が関わってたな。…殆ど話したこともねーし知ってることは何もねェな」
「母親関わってんならアイツに聞く事も出来ぇしな…」と納得したように呟いた夾に由希は目を見張った。
そしてギリッと奥歯を噛んだ。
その呟きで、ひまりは母親の記憶があやふやだってことを夾は知っているんだと悟ったから。
ただの嫉妬。
自分には話してくれなかった事を夾には話していた。
羨ましいの感情が歪んだ嫉妬。
「だからお前が嫌いなんだ…」
「あ?なんて?」
「とにかく何か分かったり思い出したら俺か春に言って。あともしリンに会ったら事件のこと聞いて……それと」
由希は沸々と腹の底で煮える物を隠していたが、どうにも感情を抑えることができなかった。
敵意剥き出しの瞳で夾を睨みつける。
「ひまりには解こうとしてること言うなよ。お前の後先考えない馬鹿な発言で彼女が傷付きでもしたら容赦しない」
「あぁ!?っるせぇな!!!何様のつもりだよお前!?!?」
由希の睨みと煽るような発言に耐えられなかった夾は怒鳴りつけた勢いのまま由希の胸ぐらを掴みドアにガンッと押しつけた。
お互い顔を近づけて殺気を帯びた目で睨み合っているとひまりの部屋の扉が勢いよく開いた。