第2章 おかえり
「…ひまりが居なくなって、夾が転げ回って…泣き喚いてたって、話……」
「おいコラ嘘吹き込みやがって、やってくれたなクソガキ」
潑春の胸ぐらを掴んでキレる夾を、炊けたご飯を持ってきたひまりが何事?と驚いて見る
お茶碗を紅葉と潑春の前に置くひまりに
「言っとくけどな!!俺は泣いてなんかねーからな!!!」
と夾が弁明するが、ひまりにとっちゃ意味がわからない訳で
「へ??泣いたってなにが?話が見えないんだけど」
キョトンとしているその顔に、いやだからさっき春がお前に言った…と言いかけたところで自分が踊らされていたことに気付いた。
額に青筋を浮かべて握っている胸ぐらを更に強く握り直した。
そんな夾に対して無表情で「てへ」なんて言うから怒りのボルテージがMAXになる。
「このクソガキャぁあぁ!?ハメやがったな表に出やがれ!!!」
胸ぐらを掴んだまま前後に揺らすものだから、ガクガクと潑春の頭が何度か揺れたとき、どこからかブチっという音が聞こえた気がした。
「「あ」」
紫呉と紅葉がそう声を揃えたときには、夾の体は障子を突き破り、縁側の方へ吹っ飛んでいくところだった。
「…ん?」
目の前で起こった出来事にひまりは思考回路停止状態で持っていた箸を落とした。
外と中を隔てる物がなくなり、蝉の鳴き声がより一層大きくなる。
「ガタガタ抜かしてんじゃねぇよ!事実だろうが、シクシク子猫ちゃん?望み通り表に出たらぁ!」
先程と目の色が変わっている潑春が飛んで行った夾を追いかけ、格闘ゲームのような激しい喧嘩が始まった。
「もうー。2人とも家壊したら罰金だよー」
「ひまりー。この目玉焼き、ボクが食べちゃってもいいー?」
紫呉と紅葉はこのイレギュラーな状況が見えていないかのように、食事を再開し始めた。
「え、なんかブラック感が…昔より凄くなってない…?」
口元を引きつらせているものの、ひまりも落としたお箸を拾っていただきますと手を合わせ食事を始めた。
「5年前って言ったらハル、ショーガクセーでしょ?さすがに今ほど大暴れはできないよー!」
半熟の目玉焼きを嬉しそうに口に入れて紅葉はニコニコしていた。