第7章 ベール
利津と一緒に買いに行ったプレーヤー。
風呂上りの濡れた髪をタオルで拭きながら、再生ボタンを押して音楽を流し始める。
CMでは聴くことのできない、最初のイントロに上機嫌で体を揺らしていた。
「そういえば…もうすぐ修学旅行があるんだっけ…」
鞄の中から取り出したプリントに目を通し始める。
場所は京都で出発は2週間後。
小学校、中学校の修学旅行に参加したことのないひまりにとってはあまり気が進むものではなかった。
観光地などでは人混みで異性とぶつかる可能性がある。
物の怪憑きにとっては正直リスクが高い。
だから今までは避けてきたこのイベント。
でも……
「最初で…最後の修学旅行…か」
卒業後に幽閉が決まっている自分にとってはこれを逃せば、修学旅行とはどんなものか知らずに一生を終えることになる。
観光地に足を踏み入れるのは不安、だけどみんなとの思い出が欲しいって気持ちもある。
「…とりあえず由希か夾に相談してみるか」
プリントを鞄に入れ、音楽に意識を戻した。
曲が終わった所でひまりは目をパチパチさせて首を捻った。
「……?」
音楽をまた最初に戻して流し始める。
そしてもう1度先ほどの修学旅行のプリントを取り出し、裏返すとペンを手に何かを書き始めた。
「…これって並べ替えるって意味だよね…。"ベルー"、"ルベー"??いや、違うなぁ。シロツメクサの方かな。"メロクツサシ"…意味わかんないなぁ。"ロクメサツシ"?…うーん…?」
ローテーブルの前で胡座をかいて腕を組み、また首を傾げながら唸っていた。
「しかもこの歌って矛盾してるよねー?最初は笑うのに、次は泣く…だし…。なんか不思議な歌だなー」
CDケースの中から歌詞カードを取り出して目を通していたその時だった。
「っるせぇな!!何様のつもりだよお前!?!?」
部屋の外から聞こえた夾の怒鳴り声に肩をビクッと震わせた。
その後も何かを話す声が聞こえて、プレーヤーの音量を下げる。
「……由希と夾?」
2人が話すなんて珍しい。
詳しく話は聞こえないが夾が一方的に興奮しているようだった。
ガンッという音が聞こえ、焦ったひまりは急いで部屋を飛び出した。