第7章 ベール
その雰囲気に気付いた紫呉に悪びれた様子は無く、戯けたような表情でパッとひまりの肩から手を離した。
「あらやだ来た来たガーディアン達。そんな怖い顔しないでくれます?」
「誰が誰と抱きしめ合うんだよ!?あぁ!?」
「きゃ〜夾君こわぁ〜いっっ」
夾の怒鳴り声に紫呉は胸の前で握り拳を作って、ワザとらしく怖がって見せると書斎へと逃げていった。
呆れた顔でため息を吐いた由希は、目をパチパチさせて軽く頭を振っているひまりの華奢な肩に手を置く。
「…大丈夫?ひまり?」
「ありがとう、平気ー」
落ち着きは取り戻したものの、自己嫌悪に陥ったように沈んでいる利津の姿を見たひまりは眉尻を下げて微笑んだ。
利津の隣にしゃがみ、顔を覗き込むと利津はハッとした顔でひまりの視線に合わせる。
「ねぇ、利津。プレーヤー買いに行くのついてきてくれない?」
「え、そんなっ。ひまりさんのお手を煩わせるなどっ!私が買いに行ってきますっ!!」
「えー。私自分で選びたいし、良かったらついてきてよ!ってことで、夾!ご飯の準備よろしくっ!」
「はぁ!?」
急に話を振られた夾は一瞬嫌そうに眉根を寄せたが、頭を掻きながら「まぁ構わねぇけど…魚焼くしかしねーぞ」と承諾してキッチンへと向かった。
その様子を見届けた後にひまりは戸惑う利津の手を取ると強引に玄関へと連れて行く。
「由希ちょっと着替えて行ってくるね!すぐ帰ってくるからー!」
返事を待つこともせず姿を消したひまりにクスッと微笑んだ由希は、キッチンに立つ夾へと視線を向けたあと、紫呉がいる書斎へと目を移す。
今はタイミングじゃないか…。と肩を竦めてからひまりが出て行った玄関へと向かった。
玄関の脇に置いた軍手やジョウロなどを手に秘密基地へと足を運ぶ。
夾には自分から話すと言ったものの、潑春の話をはぐらかしたのにあの馬鹿猫が俺の話を聞くだろうか…。
いや、そもそも目線すら合わせることが出来るかも分からない。
土を弄りながらウーンと悩む。
余りにも無茶な事を自ら引き受けてしまったんでは無いだろうか…と後悔し始めていたが…
「…直球でいくしかないか」
もう逃げない。嫌な事から目を逸らしたくなかった。