第7章 ベール
ひまりと由希が居間へ戻ると、それを待ちわびていたかのように利津は立ち上がり、手に持っていたものをひまりに差し出す。
「あの、これ…。つまらないものですが…ひまりさんへのプレゼントです」
恥ずかしそうに渡された紙袋。
ひまりは驚きながらもお礼を伝えた後に、開けていいかを問う。
利津が少しだけ紅潮させた顔で首を縦に振るのを確認してから開けてみると、正方形のプラスチックのソレに不思議そうな面持ちで「CD?」と聞いた。
「はい!お好みが分からず、お店の方に聞いてみたところ、若者を中心に人気がある曲だそうで…」
ひまりはそこに書かれた"ベール"の文字に、ハッと何かを思い出したように目を見開いて、嬉しそうに口角を上げた。
「え!コレ、CMの曲のやつ!!嬉しいっ!ちゃんと聞いてみたかったの!利津ありがとうっ!」
余程嬉しかったのかひまりはピョンピョン跳ねながら喜んでいた。
その喜びっぷりに利津も嬉しそうに、恥ずかしそうに微笑んでいたがその様子を見ていた夾が呆れた顔でひまりが持っていたプレゼントを覗き込んでいた。
夾の存在に気付いたひまりが、彼にもCDを見せながら「見て見て!学校で透君達と話してたやつっ!」とニコニコと話すが夾は呆れ顔のままだった。
「…お前それどうやって聴くつもりだ?この家にそんな大層なもんねェぞ」
夾の言葉に時が止まるひまりと利津。
気付いて無かったの?と驚く由希に、笑いを堪えている紫呉。
数秒の沈黙の後、利津がひまりの両肩をガシッと掴み目を剥いてガクガクと前後に激しく揺らし始めた。
「すみませんでしたぁあああ!いい大人がこのような配慮も出来ずに申し訳ありませんんんんんん!今すぐぅううっ!今すぐにプレーヤーををぉおおおっ!!」
まるで人形のように首が揺れているひまりを助けようと由希と夾が動くよりも先に、利津の脇腹をプッシュしてひまりを助け出したのは紫呉だった。
首ガクガクで目を廻しているひまりの肩をしっかりと抱いている。
「このまま僕とギューって抱きしめ合っちゃう?」
ひまりにウィンクをするその後ろでは、黒いオーラを纏う由希と夾が眼光を鋭くさせて立っていた。