第7章 ベール
「俺だけど、ちょっといい?」
由希の声に「どうぞー」と返すとゆっくりと開くドア。
半分程開いたところで、ひまりの姿を見た途端にドアに額をぶつけ、中に入る事なく開かれたドアはゆっくりと閉まっていった。
Tシャツは着ていないが、インナーとしてキャミソールは身に付けている。
コレもダメなのか…。とひまりはTシャツを着ると閉まったドアを開けに行く。
顔を赤くした由希がドアの前で腕を組んで、額に手を当てたまま立ちすくんでいた。
「ひまり…着替えてる時はどうぞーって言わないでもらえる…?」
「あははーごめん。アレもダメだと思わなくて。あっ!これが前に紫呉が言ってた"お着替え中にバッタリ"ってやつ!?」
「防げた筈の出来事を、やむを得ない事故みたいな言い方しないでくれないか…?」
呆れ顔の由希にケラケラと笑ったひまりは「それでどうしたの?」と首を傾げる。
彼女の笑顔を見たら、ふいに潑春の「壊れそう」と言っていた言葉が頭の中で再生され、由希は聞こうと思っていた事を口に出してもいいものかと心の中で葛藤し始めていた。
僅かな情報でも欲しい。
ピースを1つでも埋めることが出来れば、それが更なる情報になって次に繋がる手掛かりになるから。
でも、いいのだろうか。
潑春が言っていた通り、目の前で笑う彼女が本当に"壊れそう"な状態なのだとしたら。
今日積み上がった問題にヒントが欲しいからと、まだ何も自らが動いてないのに軽々しく彼女を利用するような真似をしてもいいのだろうか…、と。
「由希??」
黙ったままの由希に、不思議そうな表情で名を呼ぶひまりを見て僅かに首を横に振った。
これはただの怠慢だ。
「秘密基地にね、今度植える野菜の相談。ダイコンかカブか悩んでるんだけどひまりはどっちがいい?カブなら10月頃に収穫出来るみたいなんだけど…」
「そうなの!!すぐに収穫できるじゃん!カブ!カブがいいっ!」
嬉しそうに「カブを使った料理ってなんだろうー」と考えるひまりに由希はクスっと笑った。
「カブと言えば…餡掛けとか?」
「餡掛け!収穫する頃にはちょっと肌寒くなってるだろうし、良き!!」
とにかくまずは依鈴に接触する方法を考えよう。
笑顔の裏で由希はそんな事を考えていた。