第7章 ベール
「ごめんなさいいぃぃいいいっっ!!!」
ほぼ悲鳴にも似た謝罪の言葉が聞こえ、由希とひまりは玄関でギョッとして顔を見合わせた。
紫呉のものでも、夾のものでもない声。
そして玄関には見覚えのない、ピンクの鼻緒で底に厚みのある草履。
思い当たる人物が2人の頭で同時に浮かび数回の瞬き後。
「「利津??」」
と声を揃えた。
未だに響き渡る謝罪の声に、思い浮かぶ人物が確信に変わったひまりと由希は居間へと向かう。
そこには予想通りの人物が、鎖骨まで伸びた深みのある金色の髪を振り乱し、嫌がる夾の足に縋り付きながら謝罪を続けていた。
草摩利津。
十二支の"申"の物の怪憑きである。
若草色の振袖を身に纏う彼は見た目は完全なる女性。
女性のような格好をするのは、全てにおいて自分が悪いと思ってしまう"劣等感"という言葉を背負って生きているようなその性格故。
男性の服よりも女性の服の方が何故か落ち着くから、という理由らしい。
「りっちゃーん。お目当の相手が帰ってきたよー」
あまりの必死さに由希とひまりが部屋に入って来たことに気付かない利津に、傍観していた紫呉が声を掛けると怒涛の謝罪ラッシュがピタリと止んだ。
既に泣いていた利津は、ひまりの姿をその目に捉えた途端に更に涙の量を増やした。
「利津久しぶり」
「あぁ…ひまりさん…」
久しぶりの再会に利津はゾンビのように「ああぁ」と声を出しながらひまりの元へと近寄ってくる。
そんな利津に困ったように眉尻を下げて笑うひまりが放った「相変わらずだね…」の言葉にピシリッという音と共に動きを止めた。
利津の様子にネガティブスイッチを入れてしまったと顔を歪ませたひまりと由希と夾。
「ご、ごめぇえんなさぁぁああいぃいっ!脱ぎます今すぐ脱ぎますぅうう!ひまりさんに会えたというのに女性の格好なんてしてごめんなさいいいい!!そして卵を割ってしまってごめんなさいいぃいぃ!食べ物を粗末にするという生き物として許されざる行為をしてしまってごめんなさいぃぃいっっっ!!」
「あ、うん、利津ちょっと落ち着いて」
宥めようとするひまりの隣で紫呉が持っていた扇子をパチリと閉じて利津を見据えた。