第7章 ベール
潑春と別れて1人、家までの道を歩いている由希。
道から逸れた小橋を渡ると、もうここからは草摩紫呉の家に向かう者以外は通らない道。
アスファルトから砂利へと姿を変えた閑静な一本道は、他の雑音が無い分頭の中で物事を勝手に考え始めてしまう。
潑春が言っていた。
別荘での夜、林の中で夾もひまりの話を聞いていた、と。
あの場で姿を見せることが出来なかったことは、立場を置き換えて考えてみれば理解できる。
だが潑春に聞かれてはぐらかす理由が思いつかなかった。
知らぬ存ぜぬを貫く意味は一体何なのだろうか。
それに依鈴に会いたがらないひまり。
本当の姉妹のように仲が良かった筈だ。
戻ってきてから何処かで会った?
だがそんな話は彼女から聞いたこともない。
あとはひまりの母親の謎と、呪いを解く方法。
問題が山積みすぎて、まるで何種類もある同じような色使いの細かいパズルのピースが、目の前にぐちゃぐちゃに置かれているような途方の無さ。
由希は頭をリセットするように前髪を雑にかき上げふーっと息を吐き出した。
そのまま歩みを進めると自宅へと伸びる階段の上から聞こえてきたひまりと夾の声に首を傾げながら登り切る。
「いやお前マジで晩飯にホットケーキ焼くつもりかよ?」
「だってクレープの口になってたんだもん!食べたくなるでしょっ!」
「クレープとホットケーキを一緒にすんなよ!?」
「生地だけでみれば似たようなもん!!!!!」
目の前で繰り広げられるジャレ合い。
物の怪憑きという事実を知ってもいつもと変わらない夾の態度に由希は苛立った。
どういうつもりで今、彼女の横にいるんだろうか、と。
「あ!由希!おかえり!!」
由希の姿に気付いたひまりは笑顔で大きく手を振っているが、夾は振り向くこともせずに玄関を開けて大きなスーパーの袋を両手に持ったまま中へと入っていった。
「ただいま、ひまり。今日はホットケーキ作るの?」
「そのつもり!!前に行ったクレープ屋さん、今日は居なくてお預け喰らったんだよねー。もう甘いものの口になっちゃったから晩ご飯ホットケーキ!由希達も道連れーっ」
ニシシッと悪戯っぽく笑うひまりに由希は「姫の仰せのままに」と微笑み、彼女の手に持たれていたスーパーの袋を持って玄関へと入っていった。