第7章 ベール
「なんだかもう謎が多すぎる…あのバカが知らないフリするのも、ひまりがあのバカに打ち明けずにいることにも疑問しかない……その他のことも、正直問題が山積みじゃないか?」
「うん、謎と問題が多すぎて頭パンク。俺自身も色々整理したくて話に来た」
由希はろくに読むことが出来なかった資料のファイルを閉じ、片付け始めていた。
これ以上他の情報を処理できる程の脳内容量を持ち合わせていない。
棚に纏めた資料を片付けていくのを見て、潑春も立ち上がり軽く伸びをする。
「とにかくリン。ちゃんと話聞きたい。由希ももし見つけたら話してみて」
「分かった…なぁ春、あのバカには俺から話てもいい?」
潑春は驚いたように両眉を僅かに上げる。
夾を嫌い、避けて生きてきた由希が理由はどうあれ自ら夾に関わろうとしているのは彼の中で何か変化しつつあるのかもしれない。と目を細めた。
「……うん。分かった」
任せた。の意味を込めて由希の肩をポンと叩く。
「あ、それともうひとつ」と肩に置いた手をポケットに入れた潑春に、由希はまだ何かあるのか、と眉を寄せる。
その表情から一度脳を休ませてくれとの心境が読み取れたが、コレだけは伝えておく必要があると判断した潑春は、彼の心境を無視した。
「言わないで。解こうとしてること」
寄せた眉のシワを深くした由希から視線を逸らし、片手を首に置いて床を見つめた。
「なーんか…壊れそう」
その対象が誰かなんて聞かなくても理解した。
「おいコラ聞いてねーぞ。どういうことだよ」
「いや誘ったの夾だからね?私が悪いみたいに言わないでくれる?」
立ち尽くす夾とひまり。
いつも公園の近くの小さな広場にいる筈のクレープを売るワゴン車が見当たらなかったから。
建物とは違って"ワゴン車"なのだから移動して当然。
何度かこの場所で見たことがあるのだから売り場のひとつではあるのだろうが、ここにずっといる訳がないと考えれば分かりそうなもの。
だが、2人は何故か微塵も疑うことをしなかった。
完全にクレープの口になっていたひまりは分かりやすい程に落胆の色を見せていたが、「生クリームも増し増しにしてやるから今日は我慢しろ」という夾の言葉に、単純な彼女の機嫌はいとも簡単に治ったのだった。