第7章 ベール
「だったら呪いを解く方法ではないだろ。それだと縛られたままなのには変わりないじゃないか」
「ヒントにはなるんじゃない。前から引っかかってたこと、あるんだ、俺」
更に眉根を沈め、目線だけで何が?と問う由希に、潑春は頬杖をついて話を続けた。
「ひまりだけが変身すること。ひまりは十二支同士で変身するのは自分は一員だと認められてないからって言ってたけど、それなら"俺ら"が変身しないのはどうして?お互いが変身してしまうなら説明はつく、けどそうじゃない」
「でもそれって…知りようが無くないか?」
「うん、本家にある古い書物、漁ってみたけどそれらしき物は何も。本当に今回が初めてみたい。ひまりみたいな存在は」
由希は頭の中で整理していた。
俺と同じ"子"の物の怪憑きを持つひまり。
草摩の歴史の中で同じ物の怪憑きを持った者が同時に産まれたことは一度も無い。
オマケに十二支同士であっても抱き合えば男女関係なく変身してしまうという特別ルール付き。
それなのにリンとは抱き合ってもひまりは変身しなかった。
「……っていうか、まずひまりにその時の状況とか思い当たる節が無いか聞けばいいんじゃないか?」
「あー。それは無理。ひまり、詳しく覚えてない。そん時のこと」
「…覚えてない?」
「うん、ひまり、母親の記憶消えてってる。産まなきゃ良かったって言われたことが原因で母親に関しての記憶に蓋してるっぽい」
由希は驚いたように目を見開いたあと、一瞬で混乱した頭の中を再度整理し始めるように浮かんだ疑問を投げかけた。
「リン…との事なのに覚えてないの?ひまりは」
「確かにリンとの事。だけど母親が深く関与してる事だから。…ひまりが物置部屋に閉じ込められた時だよ。リンに抱き締められてたのは」
由希もその事件のことは覚えていて、その時のことを思い出したように目を伏せると「あぁ…」と納得したように相槌を打つ。
隔離部屋へひまりが会いに来ると約束していたのに来なかった日。
彼女の代わりに姿を現した依鈴が、事の経緯を淡々と説明してくれたからその事件に関してはよく知っていた。
もうひとつの疑問は……
「あの母親が…ひまりに対して産まなきゃ…なんて言うか?」