第7章 ベール
「ゆーんゆんっ」
ガラッと生徒会室のドアを開けて、そう由希を呼ぶ潑春。
由希は机で何か資料を見ていたようで、その呼び名に顔をあげ明らかに嫌そうな顔をした。
「お前までそれで呼ぶなよ」
「いいじゃん…ゆんゆん」
由希の近くの椅子に座る潑春に「ただでさえ定着しつつあるのをどうしようか悩んでるのに…」と頭を抱えた。
そんな由希に潑春はフッと笑う。
「でも…いいこと。由希の世界が広がるのは」
「…うるさい。その保護者目線やめろ」
僅かに顔を赤くして資料へと視線を落とした。
「ただ、浮気は…許さない」
「ひまりを好きだとほざいてる奴の言う台詞じゃないけどね。それで?どうしたんだ?こんなとこにまで来て」
「そう、ひまり。ひまりのことで話があって」
足を組んで自身の首につけている十字のネックレスのチャームを手に、それを見ながら話すと由希が顔を上げる。
「俺、呪いを解こうと思って」
「……は!?」
余りの驚きに机をガタッと鳴らした由希は、瞬きと息をするのを忘れているかのように目を見開いて潑春を凝視していた。
由希の反応が予想通りだった潑春は、変わらずチャームを指で弄び続けている。
「そんな…夢物語みたいな…」
「意外と…そうでもない。ひまりに関しては、だけど」
「…どういうこと?」
弄んでいたチャームをパッと離し、未だに目を見開いたままの由希に視線をやる。
「5年前…ひまりはリンに抱き締められても変身してなかった。俺もその場に居合わせたから勘違いでも何でもない」
由希は折り曲げた人差し指を口元に持っていくと、何かを考えるように視線を落とす。
ひまりが物の怪憑きだと知った日、彼女は確かに"男女関係なく十二支メンバーに抱きつかれると変身する"と言っていた。
由希も彼女を抱きとめた際に変身した所を見ている。
それなのにリン相手だと変身しなかった…?
「ひまりの場合、何か…条件が揃えば変身しない…もしくは呪いが解ける…ってこと?」
「解ける…ってのは違うと思う。実際今もひまり、物の怪憑きのまんまだし。ある条件下では変身しないって事。多分」
その言葉に由希は眉を潜めて潑春に目を向けた。