第7章 ベール
「だーかーらー。そんな顔させたかった訳じゃねーって」
歩き出す夾の隣で、どこか悔やんだような表情のままなひまりに小さくため息を吐いた。
急に立ち止まったかと思えば、帰り道とは別方向へと向かい出す夾に戸惑ったひまりは彼の裾を掴んで「どこ行くのっ」と問い掛ける。
返ってきた言葉はたった一言「クレープ」
その一言で意味を理解したひまりはフッと笑って「アイス乗せね」と夾の肩を軽く叩いて彼の横を付いて歩いた。
人がまばらになってきた校舎内で潑春は由希を探していた。
生徒会ならまだ残っているだろう、と紅葉を先に帰らせて由希の姿を探しながら生徒会室へと足を運んでいた。
「あっれー!ホワイト君じゃーん!」
「なになにぃ?翔のお友達?」
「……あ。ブラックの人」
生徒会へと繋がる廊下で見覚えのある人物と見覚えのない人物が1人ずつ。
翔は潑春の姿を捉えると笑顔で手を振りながらかけてくる。
それに手を上げて返し、翔の後ろにいる黒髪の女の子には軽く頭を下げた。
「ゆんゆんに用事ー?俺ら先に帰っけどゆんゆんはまだあん中でお仕事中よー」
「あっ。入学式の時にぃ、噂になってたゆんゆんと同じ草摩の子だよねー?初めましてーっ。藤堂公だよー!生徒会の書記なんだぁ!」
「草摩…潑春です」
猫撫で声と上目遣いで潑春を見つめる公に、いつものぼーっとした無表情のまま軽く自己紹介を終えると、詰め寄ってくる公を避けるように一歩後ろへと下がった。
「草摩の人ってホントにみんな美形揃いなんだねぇーっ。公のことぉ覚えててね?」
「ホワイト君、コイツ魔性って呼ばれてっから気つ」
「うっせぇ二度とその口きけなくしてやろうか」
笑顔のまま低い声と共に翔の脇腹に素早くストレートを1発打ち込んだ公に、潑春はテンション低めに「おぉ」と拍手を送っていた。
「じゃあまたお話しよぉね!ホワイトくんっ!」
何事も無かったかのように笑顔で「あぁもうホントいてぇなぁ」と力なく笑う翔の後ろ襟を掴み片手で引きずっていく公。
楽羅姉みたいな人って他にも居たんだ…と心の中で呟いて、廊下の奥にある生徒会室へとその足を向けた。