第7章 ベール
「ねぇ、由希待たなくて良かったの?まだ生徒会でしょ?」
「なぁーんで俺がアイツと登下校を共にしなきゃなんねーんだよ」
学校の門を出たところで持っていた鞄をひまりに返した夾は、不機嫌そうにポケットに手を入れて歩いていた。
ひまりが透達と話をしていたのは仲良くなったからだけではなく、どうやら由希を待つという理由もあったようで、それに付き合わされていたことが気に食わなかったらしい。
「朝は一緒だったじゃん」
「お前とクソ鼠の出るタイミングが俺と一緒だっただけだ」
「…由希と2人だったら、初日からファンの子に目つけられるからって一緒に登校してくれたんでしょ」
揶揄うように顔を覗き込むひまりに夾は眉根を寄せて顔を真っ赤にする。
「ち、ちっげーよ!バカじゃねーのお前っ」
「くくっ。夾くんやっさすぃーからなぁー」
「ざけんなっ!その夾"くん"もやめろ!!」
「えーなになに?夾"くん"照れてんのー?」
ケラケラ笑いながら揶揄うひまりに、簡単に乗せられる夾はギャーギャー文句は言いつつも、背丈の小さいひまりの歩幅に合わせて歩いている。
そんな2人を遠くから見ていたある人物の視線に気付いた夾がパッとそちらに目を向けると、驚いたように…そして逃げるように去って行く。
立ち止まる夾が向けた視線の先をひまりが見たが、人が逃げるように建物の陰に消えて行ったところしか見えず首を傾げる。
「知り合いでもいたの?」
「楽羅……」
「え?」
視線を外さず、眉間にシワを寄せる夾。
ひまりが慌ててもう一度目を凝らしてみるが、楽羅らしき人物は見当たらない。
楽羅が夾に体当たりもせず去って行くなんて考えられない。
向こうは気付いてなかったとか?
いや、それはない。
逃げるように姿を消した楽羅。
前回の夾の様子といい、今の表情といい…。
これは確定。"楽羅と"何かがあったんだ。
以前、夾の部屋で何があったとは聞かないと言ってしまった手前、何も聞けずにいた。
だが、正直とてつもなく気になる。
聞くか、聞かないか…。
また今朝のように表情が迷子になっているひまりに気付いた夾は彼女の顔を覗き込むとその鼻を指で摘んだ。