第7章 ベール
朝、家を出た時にはそれ程感じなかった緊張が、学校に近づくにつれ増していったひまりはその表情が迷子になっていた。
「ひまり、顔が引きつってるよ。大丈夫?」
「はぁーっ!緊張するーっ!ドッキドキだぁ!!」
「お前って緊張とかすんの?」
心配してくれる由希と違って、夾は意地の悪い顔でひまりの顔を覗き込む。
ひまりはそんな夾を睨みつけ、かかとに蹴りをお見舞いしようとしたのだが、学校の敷地内に入った途端にピタリと止んだ生徒達の声に周りを見回した。
痛い程に突き刺さるその視線に、最初は生徒会長の威厳的なものなのだと思っていたが、どうやら突き刺されているのはひまりの方だった。
その中でも女子生徒からの視線が特に痛い。痛すぎる。
痛い視線に更に緊張感が増したひまりは、ぎこちない歩き方になってしまう。
「どうしたの?ひまり、変な歩き方して」
その言葉と共に由希がクスッと笑えば、何処からともなく聞こえて来る女子の悲鳴。
女子の悲鳴という非日常的な音に肩をビクッと震わせ、ひまりは軽く怯えていた。
「クソ由希のせいだ。気にすんな」
と、夾が呆れたように言っていた意味がその時は分からなかったが、透が言った「由希は人気でファンもいる」という言葉に、やっと不可解な現象の理由が分かった。
だから由希は女慣れしてるというか…ナチュラルにキザれるのもそういうことだったのか。とこちらも納得する。
「王子の親衛隊の奴らかー。王子と知らない女が登校してるーって騒いでたもんなー。ひまりが草摩の一族だって知ったら静かになんじゃねーの?」
「あら、そんなに聞き分けがいい人たちだったかしら?」
咲が教室の後方にあるドアにチラリと目を向けると「ヒィ!!」と言いながら逃げていく女子生徒が数人。
ひまりが同じように目を向けた時には既に姿を消しており、あ、見られてたんだ。と咲の視線と女子達の声で察していた。
「…はなちゃんって怖がられてるの?」
「まさか。怖がられる理由が微塵も思いつかないわ」
ふふっと優しい微笑みをしている咲だったが、ありさの「どう考えても電波だろーが」と突っ込んでいるのを聞いたひまりは「待って、電波って何」と数回の瞬きと共に問いかけた。