第6章 執着
「ちょっ…」
突然の事に驚きながらも、自身の腕を彼との体の間に入れ込み抱き締められる事は免れた。
だが額は、潑春の胸にピッタリとくっついている。
押し返そうとするが、後頭部と肩に置かれた手にガッチリとホールドされていて抜け出す事ができない。
お互い力を込め合う姿は、側からみれば少しばかりシュールな光景に見えそうだ。
「はーるーっ」
「…なに?」
「離してよ。変身しちゃうでしょ」
「うん。今解けてないか、確かめようかなって」
「確かめんでいい!!」
突っ込みを入れ、また涼しい顔でもしてるんだろうと顔を上げようとするが、後頭部に置かれた手が邪魔でそれができない。
だんだんと力を入れている腕にも疲労が溜まり始めていたが、抜いてしまえば変身することになる。
変身後の自身の姿が嫌いなひまりにとっては避けたい結果である。
何とか離してもらえないだろうか、と思い始めた時彼の手の力が緩んだ。
ゆっくり顔をあげると、僅かに眉尻を下げる潑春の表情に少しばかり驚いてしまう。
「隠すことが…必ずしも相手の為に、なるとは限らない」
それは事実を隠した自分自身に言ったのか、それとも闇に呑まれそうだったひまりが感情を隠したことを言ったのか。
潑春が隠した事実を知らないひまりにとっては、後者の事を言われたのだとしか思わず、複雑そうにぎこちなく笑った。
「ひまり、変身しなかったことリンに聞けば分かるかも。何か知ってる気がする」
「リンに…」
ひまりは依鈴に拒絶されている。
以前別荘の砂浜で再開した時、二度と関わるなと言われたばかりだった。
「聞け…ない…。リンには…」
「どうして?」
潑春の問いにひまりは口を開こうとしなかった。
その時に言われた"ここにアタシが居たことを絶対誰にも言うな"ということを守る為に。
「リンに会った。今日」
その言葉にひまりは「え!?」と驚きをそのまま声に出す。
「夕方に会ったよ。多分何かしようとしてる…気がする。それが何なのかはサッパリだけど、ひまりに関してのことだと思う。俺の予想」
「私…のこと…?」
ひまりは息をするのも忘れたかのように、目を見張ってその小さな唇を僅かに開いた。