第6章 執着
「確かに…閉じ込められてた。多分…慊人が怒って。忘れてたのは、閉じ込められたのがショックだったからじゃない?」
潑春は隠すことを決めた。
既に混乱しているひまりに、更にその種を与えたくなかったから。
「でも…私…変身してなかった…リンに…、リンに抱き締められてたのに…」
「あの時は不思議に思わなかったけど、そこは確かに俺も疑問。変身のルールが破られたこと…一度も無いから」
幾分か落ち着きを取り戻しているひまりは、拳を口元に当てて考え込んでいた。
ひまりと他の十二支とではそのルールは少し違うものの、必ず決められた縛りで変身していた。
それはひまりも同じ。
そこで潑春はひとつの可能性を思いついた。
「…あの一瞬、呪いが解けた…とかは?」
「…そんな事ありえるの?」
「聞いたことはない。でも実際、あの時変身しなかったなら可能性としては、ある気はするけど。何かのキッカケで一瞬だけ解放された。って考えれば自然…じゃない?」
「ねぇ、その閉じ込められたのっていつ頃の話?」
「5年前。ひまりが草摩を出る少し前」
潑春のその言葉にまたひまりは考え込んだ。
しかし、どれだけ思い出そうとしても出ていった日のことですら思い出すことが出来なくなっており、また動揺したような表情で潑春を見上げる。
「待って…私、出ていったときのこと…思い出せない。前までは覚えてたのに…っ」
ひまりは忘却への恐怖で、その顔から血の気を失わせていく。
閉じ込められてから以降の事が思い出せない。
出ていったその日のことですら、思い出そうにも煙を掴むように、そこにあるのに実態が掴めないような感覚。
母以外の記憶も失っていってるような気がして、恐怖感に支配され始めていた。
これからみんなのことも徐々に記憶から消えていってしまうんだろうか。
幽閉後は、みんなとの思い出を心に生きていこうと思っていた。
それなのに、消えていってしまったら。
何を糧に生きていけばいいのだろうか。
「ひまり?」
自身の名を呼ぶその声にハッとする。
闇に呑まれそうになっていた事に気が付き、ごめん。大丈夫。と声に出すよりも先に潑春の手が後頭部を包み込み、彼の胸へと引き寄せられていた。