第6章 執着
ひまりの言った出来事が、自身の記憶の中にある事に潑春は眉根を寄せた。
確かにひまりが言った出来事はあった。
5年前…ひまりがいなくなる数ヶ月前の話。
閉じ込められていた。本家にある使われていない物置のような部屋の押し入れの中に。
事の始まりは、昼飯を食べている時に血相を変えたリンが俺を呼びにきたこと。
ひまりがいない。何処を探してもいないんだ、と。
泣きそうで焦ったような表情のリンに、食べかけの昼食をそのままに部屋を飛び出した。
「あの子、大丈夫かねぇ?」
「いつまで閉じ込めておくつもりだろうね」
リンと手分けして本家の中を探していると、不意に聞こえてきたお手伝いさん達の会話。
その会話に嫌な予感しかしなかった俺は、柱に隠れながら耳を傾けた。
「御当主の怒りを買ったのが悪いのよ。仕方ないわ」
「それにしてもあんな埃まみれの物置部屋に閉じ込めるなんて…朝から水分も食事も取ってないでしょうに」
その時既に夕方。会話を聞いて頭の中でプチっと何かが切れた気がした。
隠していたその身を飛び出させて、会話をしている目の前のババァ2人を睨みつけた。
怯えたようなその顔に反吐がでた。
「ひまりは何処。何処にいんだよ」
「は、潑春さん…」
「し、知りませんッ。私達は何も…ッ」
コイツ等は保身にしか走らない"生き物"。
慊人から自身を守る為の嘘を吐いた後、そそくさと逃げるように去っていく。
「ほんとに反吐かよ」
その背を更に睨みつけた後、"埃まみれの物置部屋"に目星があった俺はその場所へと急いだ。
その部屋の扉は既に開いていて、予想が外れたか?と一瞬落胆したが部屋の中に入ってみると暗い押し入れの襖が開いていてその中でぐったりとしたひまりを抱き締めるリンがいた。
襖の近くにこの埃まみれの部屋には似合わない、真新しい木の板が置いてあるのをみると、どうやらアレを衝立にして扉が開かないようにしたんだろう。
この時は、ひまりが物の怪憑きだと知らなかったからその光景に何ら違和感は覚えなかった。
だが、確かにおかしい。
ひまりが言っていたことが正しければ、何故あの時ひまりはリンに抱き締められても変身しなかったんだろうか。