第6章 執着
完全に目が覚めてしまったひまりは外の空気でも吸いに行こうか。と立ち上がった。
その間もずっと夢の内容を思い出そうと春を呼んだところから記憶を遡っていた。
春を呼んだ。
何で呼んだんだっけ?
春がどっか行こうとしてて…
「ひまり」
降ってきた声にハッとする。
ひまりの目の前に同じように立ち上がっている潑春の姿に慌てて、「春は寝てて」と伝えようとしたが、潑春の人差し指がひまりの眉間に置かれたことによりその言葉を飲み込んだ。
「難しい顔、してる。ほんとに、どした?」
「夢…見たんだけど思い出せなくて…。何か重要なことな気がして…」
「……そうだ。散歩付き合って」
「え??」
右手を左肩に置いて首を鳴らしながら玄関へと向かう潑春。
え、え、と戸惑いながら大きな音を立てないようにつま先歩きでひまりはその後を追う。
エスパーか、はたまた偶然か。
春の事だから、私が外に出ようとしていたのを察しての行動のような気がするが…と思いながらもその意図は聞かないことにした。
聞いたところで前者であれば、春の性格ならはぐらかされるのがオチだな、と。
夏が衰えてきた夜というのは、少しの風でも肌寒さを感じる。
玄関を出た所でそのひんやりとした感覚に、みた夢の内容が溢れるように思い出されひまりは目を見開いて立ち止まった。
「リン…」
立ち止まり呟くひまりに潑春が振り返った。
下を向く彼女の顔を覗き込もうとしたその瞬間、バッと顔を上げて潑春の胸あたりに掴みかかるひまり。
突然のことに驚いて仰け反りそうになった潑春だったが、思いのほか強い力で捕まれていて体勢を崩さずに済んだ。
「ねぇ春!私に何があったの!?リンがいたの!リンが…っ」
必死なひまりに困惑しながらも、優しく彼女の両腕に手を置いた。
「落ち着いてひまり。夢の、話?」
そう、あれは夢だけど。
私の記憶だ。
私の記憶が夢として出てきた。
リンに抱き締められていた。
変身していなかった。
リンも驚いたように…。
何故?どうして?
「は、る…。私閉じ込められてたの?何で変身…してないの?なんで…この事が記憶から…消えてたの?」
潑春に縋りつくように握った服のシワをさらに増やした。