第6章 執着
なんとなく分かった。
これは夢の中だと。
暗闇の中で脚を抱えて座る私。
濡れた瞳の感覚に、泣いてるのか。と冷静に判断する。
ひんやりと肌寒さも感じて、夢にしては妙にリアルだなと思った。
そう思ったのと同時に暖かい何かに包み込まれ、その気持ち良さに体を委ねた。
——— え…ひまり…呪いが…
リンの匂いと声だ。
驚いたようなその声に目を開こうとするが叶わなかった。
それどころか、指先一本ですら動かすことが出来ない。
私の夢なのだから、私の好きにさせてよ。と声を発しようにもそれも叶わない。
——— 大丈夫。大丈夫だよひまり
暖かい。とても。
その体温も、鼻をくすぐるシャンプーの香りも、優しい声も。
全部感じるのに体がいうことを聞かない。
自分の夢だけど、なんて融通が効かないんだろう。
——— 春、春…。ひまりここにいた。
…春?
——— 本当だ。こんなとこに閉じ込められてたんだ…。
春の声…。
閉じ込められてたんだ。私。
——— ……の……さん………できて…
——— わかっ……リンは……て…
聞き取れない。
なんて言ったの?
会話の後、春の足音が遠くなって行く。
ねぇ、春っ!
待って!
教えて。私に何があったの?
春!
春!!!
「はぁい」
突然大きくなった春の声に、一気に瞼を上げた。
薄暗い部屋の中。
覗き込むように私を見る春。
そういえば、眠気耐久ババ抜き大会をしてたんだった。
私の最後の記憶では、紅葉だけがダウンしていた。
と、いうことは私は2番目に眠ってしまったんだ。
睡眠前の記憶を思い出したところで、今度は目が覚めた途端に薄れた夢の内容を思い出そうと、何度か瞬きを繰り返した。
すると寝起きの表情で私の顔を覗き込んでいた春が口を開く。
「…ひまり?俺の名前呼んでたけど、どした?」
確かに呼んだ気がする。
もしかして、春は私の声で無理やり起こされてしまったんだろうか。
「あぁ…ごめん…起こしちゃった?」
「いや。天の声で、目覚めただけ」
「ふふっ、なにそれ」
周りで寝ているメンバーを起こさないように静かに笑った。