第6章 執着
シンと静まり返った部屋の中で、テレビからの笑い声だけが響いていた。
お互い机に頬杖をつき、ボーっとそれを眺めるだけだったが「さぁて、問題です!」と司会者が言葉を発したあと、潑春も閉じていた口を開く。
「…では夾に問題です」
「…あ?」
戯けたような言葉に、夾がチラッと潑春に目を向けるがその視線は相変わらず画面を見つめている。
また春のおふざけか…と視線をテレビへと戻す。
「あの日、夾は何処にいたでしょう」
「…意味わかんねぇ。あの日ってなんだよ」
潑春の言わんとしていることがサッパリ分からない夾は、苛立ちをその眉に表していた。
だが潑春は夾の質問に答えることなく、チッチッチッと時計の秒針を真似たような音を出し始める。
潑春が出した"問題"には、どうやら時間制限があるらしい。
何となく焦らされるその音に、更に苛立ちを募らせた夾は頭をガシガシと掻きながら「ンだよ急に。意味わかんねーって」と僅かに声を荒げた。
「……じゃあヒント」
「いらねーよ。答える気もねぇ」
「ヒントは夜」
呆れたようにため息を吐いてヒントを拒否したが、強引に続ける潑春にもう一度ため息を吐いてみせた。
「第二ヒント。俺の視線とひまりの涙」
潑春の2つ目のヒントに、夾はテレビに視線を置いたまま目を見開いて僅かに上唇と下唇を離した。
そのヒントに、あの日の出来事がフラッシュバックのように頭の中で花開いた。
そして、あの時気のせいだと結論付けた潑春の視線はやはり自分に向けられていたのだと。
だが…。
「どういうヒントだよそれ。やっぱ意味わかんねぇわ」
「…にしては。夾、分かりやすく動揺、してたけど」
会話は続くがお互い視線は合わせない。
テレビの中では、制限時間内に回答できなかったタレントが分かりやすく悔しがっている。
司会者が「正解はー…」とタメにタメてからCMの後!とお決まりの台詞を吐きCMが流れ始めた。
その間、ずっと続いていた沈黙。
そして
「では正解を発表シマス」
「黙れ。訳わかンねぇっつってんだろ」
夾の方に視線を移した潑春だったが、肝心の回答者は拒むように視線を合わせない。
「答えは"林の中"」
その答え合わせにテレビを見たままの夾の片眉がピクリと動いたのを、潑春は見逃さなかった。