第6章 執着
「うん無いよ。ピザ食べたことないもん」
その発言に全員が凍りついたように動きを止めてひまりを見る。
その異様な雰囲気に「え?なに…?」と自身に向けられた視線に戸惑いながら口を歪めた。
「お前…マジで食ったことねェの?1度も?」
「え、ないよ…。そんなに変?」
「散々人のこと邪道やら私のハニーやら言っといて食ったことねぇのかよ!?」
「こないだゴゴナンデスでピザキャップの特集見たんだもん!ピザ知識はあるし!」
再度始まったひまりと夾の言い合いを傍観していた由希は肩を竦めていた。
「じゃあひまりの初ピザパーティーだねっ!!」
「……初体験」
「はーるー!」
「いい響きだねぇ…初体験…」
先程まで居間にいなかった紫呉がガラッと書斎の戸を開け、遠くを見ながら呟くと由希がそれを睨みつけた。
「おいひまり、アイツらセクハラで訴えれんぞ」
「いや、初体験がどうのとかで訴えないよ。私まだ未開つ」
「お前にこの手の話振るのが間違ってたわ」
夾はハハッと自嘲しながらひまりにそれ以上喋らせないように背後から手で口を塞ぐ。
なんでコイツはこんなにも恥じらいってもんが無ェのか…。
夾の言葉は音になることはなく、深いため息と一緒に空気中に消えていった。
「ねぇねぇ!ピザっていえばコーラだよね!ひまり!一緒に買いにいこーっ」
「ピザといえばコーラなんだ!いこいこ!」
「じゃあ俺もついていくよ。外も暗くなってきたしね」
手を繋いで玄関へと向かうひまりと紅葉の後を由希が追うと、紫呉もそれについて行き始め潑春が僅かに首を傾げた。
「あれ、先生も、一緒に買い出し?」
「あーやとはーさんと約束しててね。帰りは遅くなるから戸締りしっかりねー」
ヒラヒラーと手を振る紫呉に、別荘から帰宅したときのことを思い出した夾は「どの口がしっかりねーとか言うんだよ」と悪態をつきながらローテーブルの横に腰掛ける。
その夾の隣に潑春が座り、机に置いてあるリモコンでテレビをつけるとクイズ番組が放送されており、たいして興味もないそれを2人で見始めた。