第6章 執着
玄関扉の前に立つと中から騒がしい声が聞こえてきていた。
その楽しげな声にフッと笑うと、潑春はある予想を立てて扉に手をかける。
少し力を込めればガラッと音を立ててすんなり開く扉に「…やっぱり」と的中したそれに肩を竦めた。
この家は施錠するっていう習慣がないんだろうか…。
以前にも鍵が開いたままだと危ない、と注意した筈だったがどうやらこの家の住人の心には全く響いていなかったらしい。
「春!!幼虫どうだった?大丈夫だった?」
居間では夾と言い合いをしていたであろうひまりが潑春に気付き声を掛ける。
机の上にはピザのチラシが広げられており、どうやらピザの種類を決めるのに騒がしくなっていたようだ。
「うん。大丈夫だったよ。夾…いたんだ」
「俺がいちゃ悪ィかよ。それよりコイツどーにかしろよ。訳わかんねぇピザ頼もうとしやがんだよ」
夾が親指でひまりを指すと、ムッとして夾を睨みつける。
「どっちが訳分かんないのよ!絶対夾のやつのがありえないから!」
「あぁ!?ハチミツ掛かってるピザ頼もうとしてる奴に言われたくねえなぁ!邪道なんだよ!」
「邪道ですって!?パイナップルのがよっぽど邪道ですけどぉ!?あり得ないからぁあ!?パイナップルはパイナップルだけで食べてもらえますぅうう!?」
2人の罵り合いに由希はハァと深いため息を吐いて、紅葉は何も気にしていない様子でチラシを見ていた。
潑春が紅葉からチラシを取り、ポケットからスマホを取り出す。
「由希と紅葉…何がいい?」
「俺は別に何でも…」
「ボクはね!明太もちチーズ!ひまりもお餅食べたいって言ってたよー」
由希と紅葉からの返事を聞くと言い合いをしている2人を放置して電話をかけ出す。
「明太もちチーズとマルゲリータと海老マヨ…あとナゲットも…。はい、お願いします」
「春お前なに勝手に…っ」
「待って!チーズ&ハニーも…っ!」
ようやく潑春が注文の電話をしていることに気付いたひまりと夾だったが、一歩遅く電話を切られてしまいひまりはガクッと膝から崩れ落ちる。
「酷い…ハニーが…私の…ハニー…」
「っざけんな。甘いピザなんか食えたもんじゃねぇだろ」
「ハニーを馬鹿にするな!絶対美味しいから!食べたことないけど!」
「ねぇのかよ!?!」