第6章 執着
ザッザッと生茂る草を踏む足音に、自身を追いかけてきていると察した依鈴は振り返って音を鳴らす犯人を探す。
木の影から出てきた白い髪の青年は、先程ひまりと並んで歩いていたよく知った人物だった。
「やっぱり、リンだった」
「…何か用?」
敵視するように瞳を鋭くさせ身構える依鈴に臆することなく潑春は歩み寄る。
ひまりが失踪した時、他の十二支は落胆や悲壮感を見せていたのに依鈴だけは違った。
「これでいいんだ…」と平然としている姿が潑春の脳裏に焼き付いていた。
その時は意味が分からなかった。
むしろ苛立ちさえ覚えていた。
あれ程仲が良かったひまりがいなくなったことに何も感じないのか、と。
「ひまりに会いに来たんじゃなかったの?リンが先生の家に来る理由、それ以外思いつかない」
「アタシが何処で何しようがアタシの勝手だ。お前らだけで仲良しごっこ続ければいいだろ」
「——— これでいいんだ。」
「…なに?」
潑春は5年前に依鈴が言った言葉を口にする。
木々の葉の隙間から見える空を見上げながら、その日を思い出していた。
「あの時、意味わからなかった。まるでひまりがいなくなる事を望んでるみたいで腹が立った」
「何かと思えば昔話?そんなもんに花咲かせたければアイツ等とすればいいだろ」
苛立ったように眉間のシワを濃くして立ち去ろうとする細い腕を、潑春は掴んで引き留めた。
「はなせっ…」
「けど、分かった。ひまりのこと守りたかったんだろ。慊人から…。呪いから」
「っ!!春…知って…?じゃあやっぱりまだ…」
「何がまだ?リン、何を知ってる?」
"呪い"という言葉に動揺した依鈴は一瞬目を見開き寄せていた眉根を解放していた。
だがすぐにまた険しい表情に戻すと腕を掴む潑春の手を振り払う。
「お前に関係ない。首を突っ込んでくるな。マヌケはマヌケらしく呑気に日常を過ごしてればいいんだよ。二度とアタシに構ってくるな!」
吐き捨てると呼び止める潑春を振り切って走っていく。
去っていくその背を見つめた後、振り払われた手に視線を落とす。
本当に関わりたくないなら先生の家に来るはずない。
「突っ込むよ、首。リンが、嫌でも」
握りしめた手をポケットに入れ、また隙間から見える空を見上げた。