第6章 執着
「…どういうこと」
「それは君自身が一番…よく分かってることでは?」
耳にかけた長い髪にそのまま指を滑らせていき、お互い外さない視線は腹の探り合いをしているようだった。
その緊張の糸を先に緩めたのは紫呉。
胸に置かれた手を依鈴の元へと返す。
「ま、僕が知ってることと言えばあの子の呪いが"解けたことは1度もない"ってことくらいかな?」
「でも!あの時たしかにっ!!」
取り乱したように声を荒げ着物の襟に掴みかかるが、紫呉は無表情のまま冷めた目を向けた。
「じゃあ…それなら解く方法…!それなら知ってるんだろ!?」
「必死だね。見てて痛々しい程に。けど残念。僕も知らないよ。そんな方法」
依鈴は目を見開くと掴んでいるそれにさらに力を込める。
縋り付いているようにも見える依鈴を今度は紫呉が見下すように見ていた。
「慊人から何か…ッ」
「いい機会だから言っておこうか。僕というヤツをあまり買い被らない方がいい。慊人に信頼されてる訳でも特筆した存在でもない。力も無く、器も小さく…くだらない。最低な男だよ。…本当に解く方法を知りたいなら他をあたることだ」
襟を掴む手の力が緩んだ所で立ち上がると依鈴に背を向けた。
「ぐれ兄は…あの子の運命がどうなっても構わないと…思ってる?」
「…構う奴がどうにかすればいい。僕は自らの為にしか動かないよ。それが例え…あの子がどうなろうと…ね」
眼光を鋭くさせて去ろうとする背を見据えると、その視線に気付いて振り返る紫呉の瞳は何の色も映していないようだった。
「だから、言っただろ。最低だって」
抑揚のない声で言うと、依鈴の言葉を待たずに書斎を出て行った。
悔しさ、苛立ち、絶望。
それらを握り拳に込めると依鈴は立ち上がる。
「諦めるもんか…絶対に…」
ギリッと奥歯を噛み締めると、入ってきた縁側から飛び降り庭を抜けて階段を降りていく。
諦めるか
絶対に諦めたりなんかしない
——— ほんと、気持ち悪いね。お前。
「…っ」
何と言われようと、どれだけ蔑まれようとも。
——— リン!大好き!!
譲れないものがある。
たとえそれが報われないものだとしても。