第6章 執着
ひまりは想像していたよりも無機質だった生徒会室の椅子に座り、室内をキョロキョロと見回していた。
「社長の椅子みたいなの…ないんだね」
「ここ学校だよ?ひまり」
むしろ何故無いのか…とでも言いたげに僅かに口を尖らせている彼女の足に消毒液を湿らせた脱脂綿を当てれば、すぐにその唇は引っ込み代わりに眉根にシワを寄せた。
酷い怪我では無いが、コンクリートに擦られたであろうその傷は細かい線がいくつも入っており痛々しいものだった。
「いや、生徒会長が座る椅子って革張りのでっかいの想像してたから、普通でビックリした」
「生徒会長って言っても別に偉い訳じゃないからね」
シワになった絆創膏を貼り終え、ふぅーと大仕事を終えた後のように息を吐き出す由希にひまりはくすりと笑いながらお礼を言った。
その様子を覗き込みにきていた翔が、ひまりの膝に貼られたシワだらけの絆創膏を見てブッと何の遠慮もなしに吹き出す。
「ちょ!ゆんゆん!めっちゃ不器用じゃん!不器用ゆんゆん可愛いかよー!オレやりなおそっか?」
茶化し始める翔に、額に青筋を立てて由希が言い返そうとしたその時
「いいの!これで!」
嬉しそうに歪な絆創膏を見ながら微笑むひまりは最後に「ね?」と由希にニッコリ笑いかけた。
由希は息をするのも忘れて高鳴る心臓に聴覚を支配されていた。
そして陽だまりの中で吹く柔らかな風が自身を通り抜けていったような錯覚を覚える。
ドクンドクンと暴れるそれは、周りにも聞こえてしまっている気がして。
それでも彼女から目を離すことが出来なくて。
ガラッ
音を立てて開くドアが現実に引き戻してくれたことに感謝した。
縫いつけられた視線を逸らすタイミングを見失っていたから。
「春!紅葉!!」
「ひまりー!探してたんだよー!」
「…どうしたの?それ」
潑春はひまりの膝を顎で差すと僅かに首を傾げた。
あ、これはね!と口を開くのと同時に翔が室内に入ってきた2人の前に立っていた。
「1年生の草摩2人組じゃん!え、やっべ。それぞれキャラ際立ってるしこれはアレっしょ!ここの5人で戦隊モノ出来んじゃん!!」
潑春と紅葉はキョトンとした顔をしていたが、由希はまた始まったと頭を抱えて項垂れていた。