第6章 執着
「お前に…関係ないだろ」
「なんだよ!ゆんゆんのケチんぼ!もうA V貸してやんねーかんな!あの日に誓った、オレらの間に秘密は無しっていう男同士の約束忘れやがってぇ!」
「借りたことないし、過去を捏造するなよ」
プンスカ怒り出す翔に頭を抱えながら振り返ると、空気を読んで大人しく待っていたひまりに手招きをした。
それを合図にひまりも由希と翔の元へとやってくる。
「ごめんねひまり、コイツがうるさくて。とりあえず生徒会室までおいで。確か救急箱があった筈だから」
「それより春と紅葉とはぐれちゃったんだけど、由希知らない?」
「あぁ、さっき生徒会室に来たよ。多分ひまりのこと探してる。だから俺も探しに来たんだ」
「え、じゃあ翔ももしかして探してくれてて…」
「コイツはただのサボり」
由希が爽やかな笑顔で親指で翔を指差すと「ひっでー!見回りだよ見回りー!」と頭の後ろで手を組んで翔が反論をし始める。
「夏休み中の校舎で見回りの意味がわからない」
「敵現れたらどーすんだよ。ブラックのオレが華麗に現れて倒さなきゃなんねーだろぉ」
「眠りこけてた奴が何言ってるんだよ」
歩きながら言い合いをし始める2人を見てひまりは自身の顔が勝手に綻んでいくのがわかった。
草摩の人間以外を"名前呼び"をしていることにも驚いたが、それよりも翔と話している時の由希の"素"っぷりに驚いた。
由希もこんな風に他人を受け入れるんだと。
昔、初めて出来た友達に物の怪憑きがバレて、友達の記憶をはとりに隠蔽された時の由希は酷く落ち込んで、まるで心を闇に支配されていたみたいで…。
ひまりは勝手にあの頃のことをずっと引きずってて、進めていないのだと思っていた。
だから草摩以外の人間と深く関わらないようにしているんだと。
でも違った。
由希は進もうとしてるんだ。
それは…小さな一歩かもしれないけど、それでも。
確実に進めてるんだ。
「翔、由希のこと…どうかよろしくお願いします」
「…はい!お嬢さんのことは俺が必ず幸せにします!」
「何言ってんだ翔。殴るよ?」
ケラケラ笑うひまりと翔に、由希は大層不機嫌な面持ちで腕を組んでいた。
でも何処か、しょうがないなぁって言い出しそうな由希の雰囲気にまた頬が緩んだ。