第6章 執着
「あのー…」
乱暴にならないように僅かな力でゆっくりと肩を揺らしてみると、イビキをかくその人は眉を潜め、うーん…と声をあげる。
ビクビクしながらも、顔を覗き込みながらもう一度「あのー」と声をかけると彼の瞼がゆっくりと持ち上がった。
「……んぁ??」
「すみません、あの…謝らなければいけない事が…」
「うぉ!なになに!寝ちゃってたよ!ヤッベ、ゆんゆんに怒られんじゃん!って血ィ!血ィ垂れ流してっけど!?敵?!敵現れた!?うっそ!何処!?敵どこ!?!?」
バッと飛び起きた彼は1人騒がしく喋り目を輝かせながら、ひまりの負傷した膝を見てから顔へと視線を移す。
「ってかアンタ誰?」
目覚めた彼に圧倒されながらもひまりは愛想笑いをしながら距離を取っていた。
「あ、えっとー…とりあえず膝は血滲んでる程度なんで大丈夫です。あと敵はいないです。新学期からココに転校してきた草摩ひまりと…」
「草摩!?草摩ってゆんゆんとこの草摩!?マジで草摩って美形揃いなのなー。ゆんゆんなんて姫よ姫!いや、怒るわ言ってんのバレたら。聞かなかったことにしてー!あ、わっすれてた!オレは真鍋翔!真の鍋が翔ぶって書いてマナベカケルな!俺的には"ショウ"って呼び名がオススメなんだけど、だぁれも呼びゃしねぇ。んで、ゆんゆんと同じ2年だけど、えーっと…ひまりは?」
「あ、えー…同じ2年…です…」
翔のグイグイくる感じに押されながらも答えると、「タメじゃん!じゃあ敬語無しな!!」と背中をバンバンと叩かれる。
何だろう…この感じ…。
フレンドリーと言われればそうなのだが、何か…
誰かに…このノリは似てる気が…。
それにゆんゆん…とは話の流れ的に見て100%由希のことだろう。
今日学校にいて、由希と知り合いってことは生徒会の人間?
由希と仲良さげ?な感じはするが…翔…翔って…
「…あれ?…副会長の…翔…?」
ひまりは以前由希が話していたことを思い出し、ハッとして翔の顔を見た。
そうだ。由希が言ってた資料を作ってこなかったとか何とか言ってた副会長の翔って人だ。
ひまりの言葉に翔は急に目をキラキラさせると嬉しそうに口角をあげた。