第6章 執着
学校の敷地内を回っていると花壇に咲いている花が目に止まり、生き生きと太陽に向かうそれに見惚れていた。
その花達を見ていると園芸をしている由希を思い出し、自然と頬が緩んだ。
だが、そのせいで…
「…あれ?」
ひまりは潑春と紅葉とはぐれてしまっていた。
まぁ、春が由希目当てだから生徒会室に行けば会えるでしょ。と深刻には考えず探索がてらウロウロしよう。と歩き始めた。
明後日から由希達と同じ学校の学生。
呪いのことを知っていて、包容力抜群という"本田さん"に会えることも凄く楽しみにしていた。
不安もあるけれど……不安??
ひまりは何かとても重要なことを忘れているような気がして、顎に人差し指を置くと真っ青な空を見つめた。
歩みはそのままに。
「わっっ!?」
空を見上げながら歩くひまりは、足元の障害物に気付かずに踏み付けてバランスを崩した。
かろうじてコンクリート顔面ダイブは回避出来たが、その代わりに両膝が犠牲になってしまっていた。
「いったぁ…って…え゛?!」
血が滲む両膝の痛みよりも衝撃的な事実に、開いた口が塞がらなかった。
ひまりが踏ん付けたのは
「くかー…くかー…」
紛れも無い"人"だった。
何故か積み重ねられた園芸用の肥料が入った大きな袋を枕にして横たわる"男子生徒"。
気持ちよさそうにイビキをかくこの人物に、外で寝ているということよりも困惑していることがあった。
「な、な、何で…学校に男の子が………ハッ!?」
今まで女子校に通っていたからか、この海原高校のことを"由希達がいるのに女子校"などとあまりにも自己の都合の良いように解釈していた。
いや、考えることもしなかった。
当たり前のように上記の都合の良いものだと信じて疑わなかった。
改めて、もしあのまま倒れ込んで抱きついてたらと考えるとゾッとする。
寝ているこの人に気付かれないように、今すぐここから逃げ出したい。
が、ワザとではないとはいえ踏ん付けてしまったことは事実。
オマケに踏ん付けた足首辺りの彼のズボンに足跡まで付けてしまっている始末。
このまま立ち去るというのは人としてどうかと思う…。
ひまりは意を決して眠り続ける彼の横にしゃがむと、その肩に手を触れた。