第6章 執着
「ちょっと待て。話が見えねぇんだけど…」
夾は体勢を立て直し、困惑したように頭を抱えた。
唐突に話があると部屋に乗り込んできて、ご飯食べない宣言とはとても理解出来るものではなかった。
「それにお前、それ以上ガリガリなってどうす…」
頭に置いていた手を下げるとハッとしたようにひまりを見る。
夾の中でひまりが"ご飯食べない"宣言をした理由がひとつ思い浮かんだ。
体調不良ではなくダイエットでもないその浮かんだ予想に、目の前の彼女をじっとり睨みつける。
「お前まさか、俺がまともに食わねぇから自分も食わねぇってことじゃねーだろうな」
「え?そうだけど?」
他にどんな理由が?とでも言いたげに軽く小首を傾げる彼女に深いため息が出る。
「お前なぁ…俺のことなんかどーだっていいだろ。人の為に飯抜くなんざ…」
「私の為だよ。私の為に夾にワガママ言いにきたの」
夾の言葉に被せて言うひまりは、急に雰囲気が変わったように緊張していて、でもしっかりと夾の目を見据えてハッキリと言葉を紡ぎ出す。
「何があったとかは別に聞かない。落ち込まないでとも、悲しまないでとも言わない。聞いて欲しいことがあるならいくらでも聞く。けどご飯くらいは食べて。食欲なくても顔出して」
ひまりはギュッと手を握りしめた。
頬杖をついたまま何も反応がない夾の目から視線を逸らせて、握りしめる手を見つめた。
「時間は…時間は有限なんだよ。特にその……ほら。私たちだって卒業…すればそれぞれの道を、歩いていくんだし、この家でみんなで食卓囲めるのもずっと続く訳じゃないし…。私は…1日でも無駄にしたくないっていうか…とにかく夾がいない食卓が寂しいの!だから夾が拒むなら、ご飯食べないで餓死してやるぞって脅しにきたの!」
ギュッと目を瞑って"脅し"を伝えたが、やっぱり夾からの反応はなかった。
幻滅、されただろうか?
我を通すだなんてやっぱり間違いだっただろうか。と握った手に更に力を込めていると、目の前の彼から喉で笑うようなクックッという声が聞こえ、ちらりと彼の顔を見る。
夾はやはり眉尻を下げて、堪えながら笑っているようでひまりの緊張感が僅かに解けていた。