第6章 執着
お風呂上がりの火照った体で扇風機に当たりながら、ひまりは紫呉からの言葉を考えずにはいられなかった。
——— 君が"ソレ"を受け入れるということは即ち不変…死を選ぶのと一緒なんだよ?
紫呉は本当に何をやっても中途半端になってしまう欠陥品である自分のことを言ったんだろうか…それとも…。
だが、よくよく考えてみれば…二度と会えないことが"死"だとするならば、幽閉されることは慊人以外にとっては"ひまりの死"を意味する。
やはり、紫呉は幽閉のことを知っていてそれを言ってたんじゃ…。
ひまりの心はどんよりとした闇を生み出していた。
以前までは持ち合わせていなかった、今ある日常への執着。
幽閉になることは受け入れてはいたが、ここに来て何故かそれを拒む自分がいる。
その感情が不思議で仕方なかった。
——— ひまりはもっとワガママ言っていいんだよ。もっと欲張りで…我を通していいんだよってこと。
何が嫌なのか。どうして嫌なのか。
考えても答えは出ない。
…が、"今"嫌なことなら分かる。
紫呉の助言通り我を通してみるのも良いかもしれない。
時間は有限だ。
特にひまりにとっては1日でも貴重なもの。
とりあえず、目の前の"嫌なこと"へ我を通すべく、気合いを入れて立ち上がった。
「たのもぉおおお!!!!!!」
ひまりは返事も待たずにバンッと扉を開ける。
すると心底不機嫌そうな彼が寝転がりながら顔だけをドアへと向けていた。
「……ンだよ?」
「お話があります!!!!!」
ひまりの訪問、そして大声に起き上がり胡座を掻く。
気怠そうにしながらも、ココ座れ。とでも言うようにちょいちょいと手招きをする夾に素直に従い、ひまりは彼の前にちょこんと座った。
「ンで?…どした?」
膝を使って頬杖をつく夾の声音は優しかった。
ひまりは少しだけ息を吐き出すと夾の目を見つめる。
「さっき決めた!!私、ご飯食べない!!!!」
「……は?」
ひまりの突飛な宣言に、夾は頬杖をついていた手から顎をズルッと落とした。
目をパチパチさせている夾には、ひまりが言ってやったと言わんばかりに胸を張っている…ように見えた。