第2章 おかえり
「このまま二度寝って…寝起きが悪ィとかのレベルじゃねーだろ。…ったく」
呆れたように言うと、ひまりの肩を持って壁から引き剥がした。それでも直立したまま、長い睫毛は下を向いてピクリとも動かない。
嘘だろ…と口元を引きつらせて、今度はひまりの頭を挟むように、こめかみ辺りを両手で押さえて前後に軽く揺らしてやった。
「おーきーろーー」
さすがに夢の世界から引き戻されたひまりの目に飛び込んできたものは目の前にある夾のTシャツだった。
パチッとひまりの目が開き、やっと起きたか。とその手を離した瞬間
「うぉぉわぁぁああぁ!服近っ!?ふくちかぁぁああ?!?!」
家中に響き渡りそうな程の叫び声をあげたひまり。
咄嗟に下を向いて自分の体や手を確認しいつも通りのその姿に安堵する。
寝ぼけて夾に倒れ込んだってことではなさそうだ。
突然大きな声を出されて夾と紫呉は目を剥いていた。
そして階段を降りてきていたもう1人の寝起き最悪な彼もその声にすぐに覚醒した。
「うっっるせぇ!!誰だよフクチカって?!」
「ちょっ、人の名前違うからぁあ?!服が近くにあってビックリってことだからぁああぁ?!」
「なんだよ!服が近くにって!寝惚けんのも大概にしろよお前?!」
「ってかまずは挨拶でしょうが!!おはようございまぁあす!!!」
「情緒不安定かよ!!テンションがこええわっっ!」
言い合うひまりと夾を見てケラケラと腹を抱える紫呉。
由希は頭を抱えて「朝から何事?」と2人の横を通って居間に行き、腹を抱えてるその人物に問う。
「ひまりの寝起きの悪さが由希君並みってことだよ」
「ふーん……」
思えば昔からこの2人は何かと言い合いをしていた。
それはお互い嫌い合っているからのものじゃなく、むしろ仲が良いからこそのじゃれ合いのようなもの。
その証拠にひまりは何処か楽しそうだし、夾も本気で怒鳴りつけている訳ではない。
昨日のこともあってか、そんなやりとりを見ていると苛立ちが表情に出てしまう。
「何だか面白くなさそうだねぇ?由希くん?」
そう言う紫呉は面白がるように笑みを浮かべていて、更に苛立ちを見せた由希が「うるさい」とだけ返した。