第6章 執着
「変身してしまう呪いのことは確かに俺達にはどうしようもないかもしれない…。でもひまりが打破しようとしてることってそこじゃないだろ。まだ途中、だよね。…諦めてないなら失敗じゃない。ひまりはまだ"1度も失敗してない"んだよ?…まぁ、誰かさんの受け売りだけどね」
目を細めて笑う由希に目を見開いた。
それは前に秘密基地で失敗ばかりだった。と呟いた由希に対してひまりが送った言葉。
確かに…確かに前に由希に言ったけど…。と目を泳がせる。
「でも…それとこれとは別の話…」
「一緒だと思うけどな?俺は。諦めてないならまだ、失敗じゃないんだろ?」
「いーい事を言うねぇ。由希君。あ、ひまりの言葉だっけ?」
2人が振り返ると、いつの間にか背後に現れた紫呉が両手を着物の袖に腕を組むように入れたまま、ニコニコとした表情でそこに立っていた。
由希は突然現れ、話に割って入る紫呉に怪訝な顔をして見せる。
その態度に臆することなくニコニコの表情を崩さぬまま、紫呉はひまりの近くまで寄るとポンと頭に手を乗せた。
「まだまだ若いんだから。縋り付いて、足掻いていっぱいいっぱい藻掻いてくれなきゃ。でないと本当に欲しいものはきっと、永遠に得られないままだよ?」
紫呉の言葉に理解が追いつかないひまりは目をパチパチとさせていたが、由希は眉根を寄せると「それ、用は苦しめってことだろ?」と嫌悪感を隠すことのない表情で腕を組んだ。
「由希君荒んでるねぇ。ねぇひまり?生きるのと死ぬのだったらどっちが勇気がいる行動だと思う?」
「そりゃ…怖いし死ぬのには勇気がいる…でしょ?」
紫呉は頭にハテナを数個浮かべるひまりに構うことなく顔を覗き込むと、生死の話をしているのに笑顔の紫呉に更にハテナの数を増やしていた。
そして、その突飛な質問に戸惑いながらもひまりが答える。
紫呉はひまりの答えに口の前で人差し指をクロスさせ、クイズ番組の不正解音を真似たのか「ブッブー」と口をすぼめた。
そんなおちゃらけた紫呉の姿にひまりと由希は額にピキッと青筋を立てて、僅かに殺意を覚えていた。