第6章 執着
「前の高校で皆勤賞狙ってたんだよね」
「…へ?」
何か胸の内に秘めているものを話してくれるのだろうと身構えていた由希は、突然の"皆勤賞"の言葉に拍子抜けしたように肩をずり落ちさせる。
そんな由希の姿に、ははっと笑うとお米を研ぎ始めた。
「なんだよ急に皆勤賞ってってなるよね。でもね、ちょっとそこに賭けてたんだ」
僅かに悲壮感を滲み出して苦笑するひまりに、キュッと気を引き締めた。
お皿を片付けるときのカチャッという音ですら、彼女の話の邪魔をしてしまいそうで出来るだけ丁寧に片付けると「何を賭けてたの?」と問いかける。
ひまりはひと呼吸置くと重そうにその口を開く。
「…"そういう風に出来ている呪い"が違うものだって…この中途半端さは呪いのせいじゃないって」
ひまりは平然を装っているようだった。
平然と米研ぎを続け、平然と話を続ける。
まるで第三者のことを話しているように。
「何をしても中途半端な欠陥品だなんて決め付けられたくなくて足掻いてみたけど駄目だったなぁ。草摩を出た頃から皆勤賞頑張ってるんだけど、結局無理なんだよね。何かが起きてダメになるの。道端の人が急に倒れたとか、一緒に登校してる友達が交通事故で怪我したとか。お母さんが亡くなったのもそうだし、今回も火事で転校になっちゃったからまた駄目だった」
"中途半端な欠陥品"が慊人からの言葉だと簡単に理解出来てしまう辺り、やっぱり俺達は同じものに縛られてるんだと再認識させられる。
「来年も諦めるつもりはないんだけど…でもやっぱり怖いなぁって思う…かな。"ソレ"を受け入れる勇気もない…。僅かな可能性に縋り続ける私は…弱いよねぇホント」
研ぎ汁を流して苦笑するひまりの肩を掴んだ。「ねえひまり」と彼女の名を呼んで。
ん?と何故か穏やかに微笑む彼女は、受け入れる勇気もない。と言いつつもそれを受け入れようとしているみたいで。
呪いに縛られている、同じ立場の自分が「そんなことないよ」なんて簡単に慰めることもきっとその場しのぎの言葉になってしまう訳で。
ただ、諦めて欲しくなかった。
これは俺のエゴを押しつけているだけかもしれないが。
ひまりに立ち止まって欲しくなかった。