第6章 執着
食事を終え、お風呂から上がった由希は肩にタオルをかけたまま、お風呂の順番待ちをしているであろうひまりの元へと向かった。
居間からキッチンを覗くと忙しなくお皿洗いをしているひまりに、ふっと笑みが溢れる。
「ひまり、お風呂上がったよ」
「え?わっっ!!」
由希の存在に気付いてなさそうなひまりを驚かさないように注意を払ったつもりだったが、驚いたひまりが手を滑らせてしまい、シンクの中でお皿が音を立てて割れてしまう。
あちゃーやっちゃった…と落胆しながら割れた欠片を拾おうとしたひまりの泡だらけの手を、由希が咄嗟に掴んだ。
「素手は危ないよ。大丈夫?怪我ない?」
「あ、そっか。ごめん大丈夫。怪我してないよ」
振り返って由希を見上げると、眉尻を下げて力なくひまりは笑う。
「あと、俺がやっとくからひまりはお風呂入っといで?」
「いや、でも…」
「お・ふ・ろ。お米は何時にセットしてたらいい?」
「あ、えっと…6時…で…」
由希の有無を言わさぬ爽やかな笑顔に、我を通さぬことを決めたひまりは彼の優しさに甘えることにした。
ありがとう。よろしくね。と伝え居間を出たところで、ガシャンッとデジャブかな?と思う音が聞こえ急いでキッチンへと戻る。
忘れていたが、由希は破滅的に不器用なのだ。
「ま、待って!やっぱり!やっぱり私がやる!由希は拭いて片付けてもらえる!?」
あははーと申し訳なさそうに笑う由希に、その親切心を汲み取りながらもひまりはそう提案した。
このままだとお皿が割れて無くなり、お米も全て排水口へと飲み込まれることが容易く想像出来たから。
「ごめんひまり。お願いするよ」
由希が割れたお皿を片付け、2人で横に並んで洗い物を再開した。
無言で淡々と作業を進めるひまりに由希は特に何かを話しかけることもなく、ただ隣でお皿を拭いて片付けていた。
最後の1枚を洗い終えてキュッと蛇口を捻ると、ひまりが閉ざしていた口を開き始める。
「私さぁ…何をやっても何処かが駄目なんだよね。勉強も運動も武道も…なにもかも"完璧"に出来ることがひとつもないの…」
ボウルに生米を入れてシンクの前に立つとハァと僅かに息を吐き出した。