第6章 執着
それからの夾は不機嫌さが常にでているような感じで。
「夾!ご飯出来たよー!」
「…悪ィ。いらね」
「…りょーかい」
ひまりが晩ご飯を伝えに行ってもあまり食事を取らないことが数日続いていた。
必要な時以外は居間に降りてくることもなく、ひまりを避けているようにも見えた。
「あれ?夾君また晩ご飯いらないって?」
「みたいだねー…じゃぁ食べよ!いただきまーす!」
「……」
明るく努めるひまりを横目でチラリと見た由希は、紫呉とひまりに気付かれない程の小さなため息をつくと、「いただきます」と手を合わせた。
「お!今日は玉子焼きの中にチーズが入ってるねぇ」
「巻いてる途中で横から出てきて大変だったんだよねソレ」
「ふふっ。ひまり、欲張ってチーズ入れすぎたんじゃない?」
夾がいない食卓でもいつも通りの風景だった。
いや、"紫呉と由希は"変わらなかった。
自身ではいつも通りに出来ていると思っているひまりの態度に合わせるように、いつも通りを演じる。
いつものようにニコニコと由希は笑っていたが、ひまりの抱えるものの元凶である人物に対しては腹に据えかねるものがあるようで、時折無表情になっている。
一方の紫呉はというと、まるでぎこちない態度のひまりを望んでいたかのように、2人にバレない程度に不敵な笑みを浮かべていたとか。
「それにしても時間が経つのは早いねぇ」
お味噌汁をすすりながらシミジミと答える紫呉に「何?急に?」と由希が不審な目を向ける。
「いやぁ、ひまりが来てからもう1ヶ月経つんだなぁって。言ってる間に夏休みも終わっちゃうねぇ」
「あぁ、もう1ヶ月経つのかー。確かに早いかも」
思えば、火事が起きてこの家にお世話になり始めたのはつい先日のような気がしていたのに。
ひまりは背筋が急にゾッとして一瞬動きが止まる。
——— 高校を卒業するまでの間だけ自由にさせてあげる
何故自由が無くなることに恐怖を覚えたのか。
「どうしたの?」
「あ、昨日の残りレンジに入れたままなの忘れてたっ!」
由希の問いかけに、あははっと笑いながら席を立つ。
ひまりの様子を横目に見ていた紫呉がまた、満足げに微笑んでいたのを2人は知らない。