第6章 執着
確かに辻褄合わせの恋だったけど
——— 馬鹿!ひっつくなよ!あっちいけよ!
不器用だった夾君を…
——— ん?あぁ…えらい…かもな
無邪気な笑顔で私を慕う…夾ちゃんを…
——— お姉ちゃん!待ってー!
「夾ちゃん!!!!!!」
本気で好きだったんだよ。
「夾ちゃん…夾ちゃん!…ッ夾ちゃん…大好き…」
始まりは辻褄合わせでも全部が嘘だった訳じゃないの。
信じて…
「夾…ちゃん…大好き…だよーッッ!!」
嘘じゃなかった。
いつしか本気で恋をしてた。
貴方を見ると胸が高鳴って。
触れたくて、私の事で困って欲しくて。
止めどなく溢れる涙で視界は霞んでたけど、滲んだ夾君がゆっくり近付いてきてくれるのが見えた。
ごめんね。
こんな姿じゃ放っておけないよね。
ごめんね夾君。
最後まで困らせて。
狡い私で本当にごめ…
トン
「!!」
ボロボロと泣く私を慰めるように夾君は胸を貸してくれた。
私の頭を片手で包み込んで。
抱き締めてくれた訳じゃない。
もう片方の手は私に触れる事なくダラリとさせているのは、そういう事じゃないよっていう夾君の優しさ。
でも…化け物の姿を見て逃げてしまったあの日から初めて…
夾君から私に触れてくれた。
「ありがとう…ありがとな…楽羅」
縋り付いた。
夾君の背中に手を回してギュッとその服を握り締めて泣き喚いた。
まるで小さな子どもみたいに。
きっとこれからは貴方を追いかけることなんて出来ない。
きっと触れることも抱きつく事も出来ない。
けど…
今の…今私を慰めてくれる夾君は
ありがとうって優しい声音で伝えてくれる夾君は、今は私だけのものだって。
あの頃の、私の後を必死に追いかけてきた小さな夾君は私だけのものにしたくて。
私みたいに"ごめん"じゃなく、"ありがとう"って言ってくれた夾君は…
私が泣き喚くのを、嫌な顔ひとつせず傍にいてくれる夾君だけは…
ねぇ、お願い。私だけのものでいて。せめて、今、この時だけは…。
ひまりにだって、渡してあげないよ。
…なんて、最後まで狡い女だよね。
ごめんね。夾君。
ううん。
罪悪感に囚われて離れられなかった私の心を溶かしてくれて
ありがとう。夾ちゃん。