第6章 執着
結局は自分のことばかりで。
私は、私のために。
ただただ自分が楽になりたいだけで夾君を…
「だから好きになった…辻褄合わせの…恋だったの」
言ってしまった。
地面に視線を落とした。
止められなかった狡い涙が、少しでも髪で隠れるように。
「いつだって…自分のためだけに、夾君を追いかけてた…ごめん」
なんて勝手なんだろう。
なんて狡いんだろう。
「ごめん…夾君…ごめんなさい…」
握り締めていた両手を額に押し付けて、しゃがみ込んで泣いた。
自分が恥ずかしくて…醜い。
嫌いだ。
狡くて、自分勝手で、泣いて…嫌いだ。
「お前が…」
突然降り注いだ夾君の声にビクッと肩が跳ねる。
大丈夫。貶される…軽蔑される覚悟は出来てる。
けど、次に続く夾君の言葉は私を責めるものでは無かった。
むしろ…
「お前がわざわざ、お前を傷つけるような事…言わなくたっていいだろ」
私に降り注いだのは優しさだった。
顔を上げて見た夾君の瞳は、少し苦しそうで。
私が私を責めることを悲しんでいるようで。
「楽羅…俺はお前を"好き"にはならない。最後まで"好き"にはならない。それを…言いたかっただけだ」
芯のある瞳を見て、これも夾君の優しさなんだって…
私の辻褄合わせの恋にピリオドを打ってくれたんだ。
もう罪悪感を持ち続けなくていいんだって。
そう言ってくれてる気がして。
「見下したとかそんなことはどうでもいいよ。楽羅が謝ることはないんだよ」
いつもよりも優しい瞳で、柔らかい口調で溶かしてくれる夾君は。
やっぱり本当に優しい人で。
でもね…
「でも…言っておきたかったの!私の懺悔」
私は立ち上がって夾君に背を向けて両手を伸ばした。
その優しさに、いつまでも泣いてないで立ち直らないと申し訳ない気がして。
「はぁー!スッキリした!なんだかお腹空いてきちゃったぁ!じゃ、私帰ろっかな」
声は明るく出来た。
でも顔は見せられない。
きっと凄く酷い顔をしてるから。
「楽羅、理由はどうあれ一緒に遊んでくれたこと俺は嬉しかった」
背を向けて歩き出す私に、また夾君が降り注いでくれた優しい言葉に
「ありがとう。楽羅」
堪らなくなった。
狡い私は気が付けば振り向いていた。
ボロボロと涙を流しながら。