第6章 執着
その後のことはどうなったのかは知らない。
いや、知りたくなかった。
その事実を記憶から消してしまいたかった。
「夾君のお母さん、それからますます夾君を外に出さなくなっちゃったよね…。私ね、物の怪憑きで産まれたこと悲しかったよ。小さい頃、私のせいで両親が喧嘩するたび、ママが1人で泣いてるのを見るたび悲しかった。自分がたまらなく…嫌で…。不安だった」
自分の存在がどうしようもなく嫌で、毎日苦しくて、どうしようもなくて…。
「だから、夾君と初めて会った時…嬉しかった。安心…した。猫憑きに比べれば、私は全然不幸なんかじゃないって思えた。こんな…こんな1人で目玉焼きなんか描いて遊んでいるような子供に比べれば、私は哀れじゃない。不憫でもないし疎まれてもいない…この子に比べれば.」
話を続ける私の言葉を遮ることなく聞き続けてくれる夾君の顔を見ることは出来なかった。
怒ってる?軽蔑してる?
それは覚悟の上で話してるけど、それでも怖かった。
「そう…実感出来ると知ったから。ずっと夾君を見下してたの。酷いよね…私は…汚い」
あの日、数珠を奪い取った自身の両手を見つめた。
逃げ出した自分が…心から怯えた自分が汚く思えて…。
たまらなく汚く思えて嫌だった。
そこに、なんの躊躇もなく夾君の元へと駆け寄るひまりが…
更に"私"という人間を汚く思わせた。
やり直したかった。無かったことにしてほしかった。
ひまりになりたいと…思った。
だから化け物の夾君を受け入れられる綺麗な自分を夢見たの。
ひまりみたいに、夾君を受け入れる自分を。
その考えこそが汚いってことに気付かずに…。
震える両手をギュッと握りしめた。
汚い自分を隠すように、それを鳩尾にグッと押し付けた。
溢れそうになる涙を必死に堪える。
ここで泣くのは卑怯だ。
泣くな。気丈に振る舞え。
「夾君を好きになれば…夾君が私を好きになってくれれば…逃げた自分も汚い自分も無かったことになるんじゃないかって思ったの」
そうなればひまりと同じになれると思った。
ううん。ひまりを越えられるって思った。
でも違った。