第6章 執着
本日は快晴。
雲ひとつない青空が、夾には皮肉に思えた。
楽羅に伝えることを思うと、とても気分を上げることが出来なかった。
「きょーうーくーーん!こっちだよー!」
「うっせーな。見えてんよ」
楽羅との待ち合わせ場所に5分前に着いたが、彼女は既にそこにいて大きく手を振っていた。
「夾君えらいっ!遅刻しないでちゃんと来たね!でもでも!私は30分前から来てましたぁ!えらいっ?」
「ん?あぁ…えらい…かもな」
夾に近寄ると軽く服の裾を掴みニッコリ笑うが、夾のテンションの低さに口を尖らせて抗議を始める。
「テンション低ッ!せっかくのデートなんだからもっと明るくいこうよ!」
「…お前のテンションが高すぎるだけだろ」
あっちーとシャツの胸元から空気を送り込むように数回引っ張ったあとズボンのポケットに手を入れた。
「で?どこ行くか決めてあんのか?」
「もっちろん!始めに映画でもー…って思ってたけど、興味ないもんね。夾君は。前のダブルデートでも結局行かなかったし」
「興味ねぇな」
「未だにテレビとあんまり見ないの?見てももう怒る人はいないよ?」
「そんなんじゃ…ない」
以前ならば「ンなことお前に関係ねぇだろ!?」と怒鳴っていただろうに、夾は表情にも怒りを表すことはなかった。
そっか…そうだよね。夾君は元々…怒りんぼなんかじゃ…なかったよね。
「じゃあ行こっかー!」
「行くって、たからドコ行くんだよ??」
夾の腕に自分の腕を絡めると、「ひみつー!」と目的地は告げずに引っ張っていく。
楽羅のその笑顔は本当に楽しそうに笑っていて。
"デートしないと話を聞かない"と我を通した楽羅は、恐らく夾が言わんとしていることを理解しているのだろう。
それでもいつもと変わらず、嬉しそうに、楽しそうにこのデートを楽しむ楽羅が何を考えているのか、どこへ連れて行こうとしているのか。
夾には全く想像もつかなかった。
「あっちーだろ。離れろ」
「やだよー!なんてったって今日はデートだからねっ」
ギュッと更に力を込めて抱きつく楽羅は笑顔なのに、その手が僅かに震えていた。
…そうだよな。
やはり分かっているんだ楽羅も。
俺の気持ちを。何を言われるのかを。
夾はその手を突き放すことが出来なかった。