第6章 執着
大量に買った食材の入った袋が2つ。
どちらも由希が持ってくれていたので、ひまりが玄関のドアを開けた。
「ただいまー!」
ひまりの声と同時に居間から聞こえてくる足音は、その人物を待ちわびていたかのように早い音だった。
「お前!綾女のやつに連れて…………な、んだ?その格好…」
不機嫌そうに眉根を寄せていた夾は、帰ってきたひまりのいつもと違う着飾った姿に目を見開いて、眉根の筋肉を緩めた。
「あー、これ?綾女のお店で働いてる美音さんって人がしてくれたの。この服は綾女の手作りなんだってー凄いよね」
靴を脱いで玄関を上がると、スカートを持ってヒラヒラとさせる。
「女子っぽいよねーこの格好してたら」
「…っぽいじゃなくて女だろ、お前」
頭を掻きながらまた不機嫌そうに顔を背ける夾に、荷物を持った由希が横を通り過ぎ様に「可愛いの一言も言えないのか馬鹿ネコ」と小言を言われ、シャーっと威嚇を始めた。
「おやおやおかえり由希君、ひまり。あーやのとこの子に可愛くしてもらってたんだねー!似合ってるよー!夾君、女の子が着飾ってるときは褒めないとー」
玄関に顔を出した紫呉がサラリと褒めたあと、同じように小言を言われ夾は舌打ちをしながら居間へと戻っていった。
紫呉の褒め言葉に軽くお礼を言ったひまりは、買ってきた食材を片付ける為に由希と夾の後を追ってキッチンへと向かう。
「そうそう!今日はちょっともう時間無いけど、明日は唐揚げするよー!夾、唐揚げ好きー?」
「あ?あー…悪ィけど明日…ちょっと野暮用。飯いらねーから」
「なになに?デート?」「あぁ!?!?」
紫呉の語尾を隠すように大きな声を上げる夾だったが、その甲斐もなくその場にいる全員に"デート"の言葉は聞こえてたようだ。
「デート??誰と??」
「ははーん、楽羅かい?モテる男は大変だねぇ。夾君?」
「ったく…。デートする暇があってひまりの買い物についていく暇はないんだな。呆れた」
ひまりには青春だねぇーとニコニコされ、紫呉には茶化され、由希には呆れられた夾は「うるせぇ!!!!」と怒鳴りつけると居間を出て行った。
笑っていたひまりの顔を見て、眉間にシワを寄せながら。