第6章 執着
はははは!と笑い合う綾女と美音をチラリと横目で見ながら、ひまりは由希が項垂れているソファの横に腰を下ろす。
破天荒な綾女のお陰か、ひまりは先程までの恥ずかしさは綺麗に消え失せており、むしろあんなに恥ずかしがる必要があったんだろうかとさえ思い始めていて、完全に落ち着きを取り戻していた。
「……何で綾女…私が処女だって知」
「ひまり〜〜!!」
由希によって早々に遮られたひまりの疑問は綾女の耳に届くことはなかった。
もしも届いていればまた怒涛の"綾女節"が繰り広げられていただろうことを思うと、由希は心の底から安堵していた。
「ところで…ひまりの恥ずかしがりはもう終わったの?」
「うーん。何か綾女見てたら落ち着いた。奇抜な服でもないし、綺麗にしてもらったのに恥ずかしがることないかなーって」
ソファに座りながら手足を伸ばして、着せてもらった服をマジマジと見るひまりに由希はクスッと笑った。
体をひまりの方へ向け、背もたれを使って手で頭を支えると意地悪く口角を上げて目を細める。
「恥ずかしがってるひまり、もうちょっと見たかったんだけど?」
「なんなの?今日の由希急にSッ気バリバリなんですけど」
ジトーと睨み付けるが、化粧のお陰でいつもより丸く大きくなった瞳で睨みつけたところで威圧感の"い"の字も醸し出すことが出来なかった。
まるで初めて威嚇を覚えた子犬のような非力さは、由希に笑いを促してしまうだけだった。
「こら。笑うな」
「ふふっ。ごめんごめん。可愛いよ。すごく似合ってるし可愛い」
今度は可愛らしく眉尻を下げて笑う彼に「もう…調子狂うなぁ…」と愚痴りながらも、ひまりは「ありがとう」とお礼を伝えながら由希と同じように眉を下げて笑った。
「そーだっ!ひまりちゃん!これテンチョに頼んでたやつでしょ?出来上がってるよーっ」
「ほんとだ!ありが……?」
頼んだ覚えはないが、綾女の好意で作られたひまりが今日の目的にしていたソレを、美音が広げて見せてくれる。
カーキ、ブルー、ピンクの3種類の巾着はそれぞれ夾、由希、ひまりのものだとすぐに分かった。
ど真ん中に入れられた刺繍で一目瞭然だった。