第6章 執着
「帰ったらひまりはいないし、兄さんと出掛けたっていうし。急いで来たら、こんな格好してるし」
「へ、へい…」
「俺の顔見て逃げるし足は挟まれるし蹴られるし」
「え、えっと…」
え、もしかしなくとも何か怒ってる?
いや、そりゃ足蹴ったりしたら怒るかもしんないけど…
由希が?そんなに怒る?
怒る由希とか超絶怖いんだけど。
由希の顔を見上げ、冷や汗をダラダラと流しながら脳みそをフル回転させる。
見上げたその表情はふんわりと穏やかに笑っていた。
だが紡ぎ出す言葉達にはやはり抑揚はなかった。
「ここまでされて、こんなに女の子らしいひまりの姿もちゃんと見せてもらえないってどういうこと?」
由希が綺麗に巻かれたウェーブの髪に触れようとしたとき、由希の手とは反対側の壁にドンっと勢いよく置かれた手に、ひまりはビクッと肩を跳ねさせた。
綾女がまるでひまりと由希の2人ともを壁ドンするかのようにそこに立っていた。
「性欲、淫情、エロス…どの言葉をとっても卑猥なものに聞こえてしまうが分かる…ボクには分かるよ!由希!今、君の心を支配しているものこそ紛れもない男のロマンというやつなのだよ!」
「あ…綾女…?」
「みなまで言わないでくれひまり!!年頃の女性というのはこのロマンに対して理解が無いということは充分に分かっているのだよ!だかしかし!!子孫繁栄!未来永劫!!この欲がなければ人類はいつか滅亡の日を迎えてしまうという訳だ!わかるかい?不浄や不潔等と言われてしまうこの性欲こそが!人類を今まで存続させ続けてきたのだよ!!」
いつもの調子で得意げに言い放つ綾女を、由希は嫌悪感を出した表情で振り返り見上げていた。
その目は完全に据わっている。
「さぁひまり!世界のために!由希という完全無欠な王子にその処女を」
ガンッ
「行こうひまり」
由希は思い切り綾女の頭を殴ったあと、不機嫌さを醸し出しながらひまりの手を取って部屋から連れ出した。
同じく部屋から出てきた綾女は
「はっはっは!殴られてしまったよ!」
「そりゃしゃーねっすテンチョ!さすがに殴られるっしょー」
と、美音とケラケラと雑談を始めた。
ひまりを連れてソファに座った由希はハァーと大きくため息を吐いて項垂れた。