第6章 執着
「健康男子としては仕方ないがね!でもいけないよ!その欲望に耐えることも必要なのだよ!そう!今がその時なのさ!自然と湧き上がってしまうその感情を否定はしないが、駄目なのだよ由希!こういうことを女性は心の奥深くにずっと記憶してしまうからね!それがかの有名な新婚さんいらっしゃ」
「兄さん。ちょっと黙ってくれる?」
いつまでも喋り続ける綾女の言葉を遮ると、由希はゆっくりとひまりが隠れているドアへと近寄っていった。
ヒィ!とドアに隠れているひまりは、ワザとか?と思える程に分かりやすく怯えると、由希の侵入を阻止すべくドアノブを引いて籠城しようと試みる。
が、ドアの隙間に入れられた由希の足で籠城作戦は未遂に終わった。
「ちょ!足!どけて!無理!来るな!恥ずかしすぎるからコレ!!」
いつもの自分とはかけ離れた可愛らしい装いを見られることに耐えられなかったひまりは、差し込まれた由希の足に蹴りを入れ始める。
「ひまり」
「いやもうマジで!1回休憩挟もう」
「ひまり」
「はい、じゃあこの足どけようか。ね!由希!足どけて!」
「ひまり」
ドアの隙間から見えた由希の瞳はいつになく真剣な目をしていた。
抑揚のない声とその目にひまりは一瞬怯んでしまい、ドアノブを握りしめていた手の力を緩めてしまっていた。
その隙を見逃さなかった由希が、ドアを開けて部屋へと押し入ると、壁際に逃げていたひまりをこれ以上逃すまいと片手を壁に置いて逃げ道を塞ぐ。
「今日ね生徒会だったんだけど、翔……副会長が資料作ってなくて話が進められなかったんだよね」
「お、おん」
突如始まった世間話に、パニックで口調が迷子になっているひまりが胸の前で両手を握り締めながら、かろうじて返事を返す。
「それで今日もう何も出来ないなぁってなって早く帰って来たんだ。兄さんがいてたし心配だったからね。あ、オニギリは食べさせて貰ったよ。美味しかった。ありがとう」
「お、おう」
この状況でいったいなんの話をされているのか…。
未だに定まらない口調で答えながら、淡々と話す由希を見上げていた。