第6章 執着
「さっっすがあたし!!こりゃもう完璧っしょー!」
自身の全身を映すスタンドミラーの前に立つひまりの横でキャッキャと騒ぐ美音に、恥ずかしくてひまりは固まったように立ち尽くしていた。
用意された服は魔法少女的なコスプレではなく、膝下ぐらいのコットン素材の真っ白なティアードワンピースだった。
肘上まである袖にはフリルが付いていて、鳩尾にくびれを作ったデザインは小さなひまりの身長を高く見せてくれていた。
普段着と言えばTシャツ、もしくはパーカーにショートパンツ。というスタイルのひまりには何だか落ち着かず、気持ちがソワソワしてしまう。
「あ、あの…何か…変じゃ…ないですか?」
「ぜんっっぜん!いやぁ流石あたし!ではではずずいとテンチョの元へ行きまっしょー!」
はやる気持ちを抑えることが出来ないかのように、両手でひまりの手を握ると綾女が居るドアの方へと手を引かれる。
華奢なストラップの付いた3センチ程のヒールのサンダルは、いつもスニーカーしか履かないひまりには慣れないもので、おぼつかない足取りで美音の手を頼りにゆっくりと歩いた。
「テーンチョ!最高っす!最高傑作っす!」
「それはそれは!さぁひまり!ずずいと出てきたまえ!」
先に綾女の元へと行く美音に「出遅れたッ」と絶望しながらドアの影に隠れていたが、綾女の言葉に意を決してゆっくりと足を踏み出す。
部屋から出てみると、綾女と美音がキラキラした目で見つめてきていたが、そんなことよりも予想外の衝撃的な人物にひまりは目を見開いて固まった。
そして、まるで錆びた機械のようにギギギギと音が聞こえそうなほどにぎこちない動きで、元の部屋へと後ずさっていく。
ドアの影から顔だけを半分出すと、顔を真っ赤にした。
「な、な、な、何で!由希がいるのよ!学校!生徒会!サボりかぁ!?!?」
ポカンと口を開いたままひまりを見つめる由希に、焦り倒してパニックを起こすひまりはうまく喋れずに言葉に詰まりまくっている。
「さぁ!由希!絵に描いたように優美かつ端麗に変身したひまりに称賛の声をかけたまえ!恥ずかしがってはいけないよ!こういう時は心に浮かんだ言葉をそのまま伝えるべきだね!おおっと!卑猥な言葉は使っちゃいけないよ!いけないね!」